【本屋大賞ノミネート!『コーヒーが冷めないうちに』】第2回 小説の編集で知っておくべきなのは「ジャンル」と「キャラクター」

Category: あう 0220ho_3200

『コーヒーが冷めないうちに』が本屋大賞にノミネートされました。
実はこの本、編集を手掛けたのは『本日、校了!』のメンバーでもある池田るり子さん。
この本の作家でもある川口俊和さんは、小説を書くのは初めてだそうです。
それだけでも驚きなのに、なんと池田さんも、小説の編集は初とのこと。
そんな初めて尽くしの小説が、どうして43万部のベストセラーになったのか。
池田さんにこの本がどうして誕生したのか、どうして売れる本になったのかを徹底インタビュー。
第2回の今日は、具体的にどうやって内容をつくっていったのかを聞いてみます。
どうぞご覧ください。

第1回 小説を書くのが初めての人の本が、どうやってベストセラーになったのか?
第2回 小説の編集で知っておくべきなのは「ジャンル」と「キャラクター」
第3回 売るために「販促チーム」をつくった
第4回 オビに入れるのは「ジャンル」と「共感」

赤字を入れるのはどこ?

中野

 小説を作ったことがなかったら、編集は大変じゃなかった?

池田

 そうなの。私もなんにもわからないから、川口さんに書いてもらいながら、文芸編集者の友だちに話を聞きに行ったよ。

中野

 何を教えてもらったの?

池田

 あまりに素人の質問なんだけど、「文芸の原稿として、これさえできていればOKっていう基準ってあるの?」って聞いたよ。

中野

 知りたい!

池田

 それは、「一人称と三人称が混ざっちゃだめ」ってこと。

中野

 (あたり前じゃない?)

池田

 いや、あたり前じゃない? って顔してるけど、よくよく見ると混ざってるってことがすごくよくあるの。
たとえば
『あみは編集者をしている。本をつくるのは大好きだったが、仕事の多さ、忙しさに、たまにうんざりすることもあった。
「あーあ、今日も終電……」
そこまで言いかけて、あみはハッとした。』

この中に、一人称と三人称が混ざっているってわからなくない?
「ハッとした」は一人称だから、「あみは驚いた顔を見せた」としないといけない……というように教わったよ。

中野

 あ、それはありそう~。

池田

 それで、川口さんに「大変です! 文芸にもこんなルールがありました!!」って言って。川口さんって、前回も言ったけど、小説家志望だったわけではなくて、私にお願いされて、手探りで小説を書きはじめているでしょ。そんなこと言われて、ほんとうに大変だったと思う………。

中野

 何度も書きなおしたりしてるの?

池田

 一話につき、4〜5回は書き直していると思う。最後の最後まで粘ってくださったよ。

中野

 もともと脚本があっても、そんなに大変なんだ。編集的には、どんなふうに赤字を入れたの? 実用書だと、かなり直すじゃない? 取材で言ってたおもしろいことが入ってなかったり、おもしろい部分が目立ってなかったり、そもそもすごいメソッドが入ってなかったりすると必死で追加してもらうじゃん。文章がどうのっていうよりも、とにかくコンテンツ重視だから、ある意味判断がつきやすいけど。

池田

 うん、そこが実用書との違いだよね。小説は実用書と違って「コンテンツが売り」というより、「文章が売り」だもんね。

中野

 売り物が違うんだね! どういうところに赤字を入れるの?

池田

 川口さんは劇作家だから、「このキャラクターがいまここにいて、こういうことを思っていて、だからこういうセリフを言っている」っていうことが、自分では全部わかってるんだよね。でも、読んだだけではそれが読者に伝わらない箇所があったりしたら、そこをチェックしたりしていたかな。

中野

 たとえば?

池田

 (ゲラを見せて)こんなふうに書いたりしたよ。

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池田

あとは、ここで、「この人はこういう動きはしないんじゃないか?」って思ったら、それも相談したりしたよ。

中野

 そういう、「ここで作家はもっと言いたい事あるのでは?」っていうのは、読めばわかるものなの? 舞台を見てたからわかるの?

池田

 そうだね。でもきっと、文章を読んだだけでも分かるんじゃないかなあ。こういうことが言いたいんだろうけど、まだ伝わりきれていないなっていうところが。

中野

 へええ。

小説の「ジャンル」をたくさん知っておくこと

池田

 あと、川口さんに、「ひとつのお店の中で起こる話で、短編集」っていうのをたくさん紹介して読んでもらった。おなじジャンルを読むことで、掴めることがあるかなと思って。

中野

 文芸編集者はとにかく本を読むべき、って山田詠美が『AtoZ』で言ってたけど、そういう意味で役に立つんだね! ジャンルを知る!!

池田

 あ、わたしもその本好き!

中野

 他にはどんなことを言ったの?

池田

 このキャラクターを好きになれるかどうか、っていうことも話し合ったかなあ。たとえば「椅子をがたんと蹴るようにして立ち上がる」とか「舌打ちをする」とか、そういう小さなしぐさだけで、読者がキャラクターからはなれてしまうことってありそうじゃない? だから、そういう小さなことも相談していたよ。

中野

 「文章的に伝えきれていないところ」「キャラクターの性格とかまでを含めた、なんかちがうところ」を探すわけね。編集者もキャラクターの性格をきっちり把握してないと難しいよね。

池田

 それにはすごく役にたった本があってさ、『荒木飛呂彦の漫画術』っていう本なんだけど。これに、「キャラクターの履歴書を書く」って項目があるの。

中野

 履歴書書いてもらったの!?

池田

 うん、川口さんと一緒に読んで感動して、すごく細かく書いてもらった。

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中野

 おおー! 星座から結婚観まで。役に立った?

池田

 うんうん、好きな音楽とか、昔の恋愛とかも決めてもあって。直接、本には出てこないけど、性格を把握するのにすごく役に立ったよ。

(次回『第3回 売るために「販促チーム」をつくった』へと続きます!)

この記事を書いた人

中野亜海
編集者
愛媛県出身。読んだ人が「きゃー! やりたーい!」となる本をつくりたいと思っています。メイクから世界遺産まで何でもつくってます。趣味は三味線と江戸時代。尊敬する人は保科正之。