連載「ヒットメーカーに会ってみた!」ーー第7回「編集ができるようになるトレーニング」ってありますか?

Category: あう 0120ho_0030

連載「ヒットメーカーに会ってみた!」
記念すべき第1回目のゲストは、編集者の黒川精一さん。
2013年に『医者に殺されない47の心得』
2014年に『長生きしたけりゃふくらはぎをもみなさい』で
2年連続のミリオンセラーを出され、2016年にも
『どんなに体がかたい人でもベターッと開脚できるようになるすごい方法』が
ミリオンセラーとなっている、生きる伝説の編集者、黒川精一さんにお話を聞きに行きました。

第2回「市場にない、売れる本」をつくるためにはどうすればいいか?
第3回「自分がおもしろいと思っているものをつくると売れるのか問題」
第4回「本づくりをはじめる前に、かならず満たしておくべきこと」
第5回「カバーをつくるときの、6つのチェックポイント」
第6回「原稿づくりの方法」って?
第7回「編集ができるようになるトレーニング」ってありますか?
第8回「本を売り伸ばすための、PR」について教えてください!

●第7回 
「編集ができるようになるトレーニング」ってありますか?

池田

このインタビューではずっと、ヒットを出しつづける、つまりハズさなくなるための方法をお聞きしています。
「本作りの現場」で気をつけることではなく、日常生活のなかで「ハズさない力」をつけるためにできる、筋トレみたいなものってあるんでしょうか?

黒川

「編集筋トレーニング」ですね?
ありますよ。

池田

わー、やっぱり、あるんですね…!
黒川さんのやっている「編集筋トレーニング」、ぜひ教えてください!

黒川

「書き起こす」っていうことをよくやるんです。
ドラマのナレーションとか。たとえば大河ドラマの、最初の1分間のナレーションとかセリフを全部書き起こすの。

池田

大河ドラマを書き起こす?

黒川

そう、ドラマにかぎらず、NHKの「プロフェッショナル 仕事の流儀」で、無名の人を紹介する放送回は、冒頭のナレーションを書き起こしたりします。
すごく勉強になりますよ。
そこには、まだ誰も知らない人物に対して、番組を見ている人が「一瞬で興味がわく」ような技術がつまってるの。

池田

まだ誰も知らない人に「一瞬で興味がわく」ように……。
あっ、これって、私達が新人著者さんの本をつくるときに、どういうふうに「はじめに」を書くと読者が関心をもつか、みたいなことに通じるんですか?

黒川

そうそう、まさにそうなの。
たとえばね、東京メトロのダイヤ改正のときにダイヤをつくる、いわゆる「筋屋」の人の回があったんです。
見た目は普通のおじさんなんだよ。
でもそのナレーションでの引きつけが、まあ見事なわけ。
もう一瞬にして、そのおじさんに対して興味がわくのね。

池田

ダイヤ改正をする人かあ……それって、説明のやりかたによっては、すっごくつまんなくなっちゃいますよね。
「東京メトロ勤務の男性で、仕事内容はダイヤ改正です」と説明しちゃったら、たぶんチャンネルを変えられちゃいますよね。

黒川

そうなんですよ。だけど、

“彼はここ2年の東西線のダイヤ改正の際、朝ラッシュの時間帯のすべての電車にのり、すべての駅の状況を把握した。
現場の実態を克明に記録し、それにあわせて各列車の駅での停車時間を5秒単位で振り分けし直したのだ。
その結果、朝ラッシュの時間帯の慢性的な遅延は半分以下になり、遅れに対する客からの苦情も10分の1に減った。
彼のダイヤはこうした徹底した現場主義から生まれた“

とかって言われると、何だかワクワクするでしょ。
そのナレーションだけで勝負あり。
そんなことをメモして、自分の仕事に活かしていきます。
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いろんなことをメモされているごようす。

池田

活かしていくっていうと、どんなふうに活かすんですか?

黒川

たとえば、キーファー・サザーランドが主演の「TOUCH」っていうドラマがあるのね。
キーファー扮するマーティンっていうシングルファーザーと、11歳のジェイクっていう自閉症の息子の親子の物語なの。
マーティンは、ほとんど感情を表に出さないジェイクと、どうやって通じあえばいいのかわからず、苦悩するんです。

池田

見たことないです。親子のコミュニケーションがテーマなんですか?

黒川

そうです。
そのドラマは、毎回、冒頭に息子ジェイクのナレーションが入るのね。
ある放送回で、「ナイルの蟻」について語るナレーションがあったの。

池田

ナイルのアリ?

黒川

ナイル川を渡る蟻の大群がいるの。
数千匹が重なってボールみたいになって、ナイル川を渡っていくんだって。
水面から出ている蟻は息ができるけど、水中の蟻は息ができない。
だから、少し進むと水中にいた蟻が水面に出て、逆に水面にいた蟻が水中にいく。
そうやってぐるぐる回りながら、交互に息継ぎして川を渡りきるんだって。

池田

へー!すごい!!

黒川

そう、すごいんですよ。
そのナレーションでは、その様子を紹介しながら、「言葉をもたない彼らは、どうやってコミュニケーションをとっているのだろう?」というような話をするんです。
蟻の話で驚かせながら、そのドラマの本質的なテーマになる「問い」を入れてくるんですよ。

池田

自閉症であまり言葉を発しない少年が、蟻のコミュニケーションを例に出しながら、「どうやったら通じ合うのか」みたいことをナレーションで言うわけですね。

黒川

そうなんですよ。
言葉をもっていない昆虫同士が上手にコミュニケーションをとれるのに、たくさんの言葉をもっているわれわれ人間が、なぜうまくコミュニケーションとれないんだろう? っていう問いかけなんです。
もういきなり引き込まれますよ。

池田

わー、すごいなあ。

黒川

コミュニケーションをテーマにした本だったら、たいていは「人間同士のコミュニケーション」について語りはじめるでしょ。
でも、そのドラマは、「昆虫」のコミュニケーションを例に出して、「問い」をたてる、っていう手法をとっていたの。
これは、本にも応用できるはずなんです。

池田

そうなんだー!!!
著者さんの原稿だけを見ていても、そういう発想は出てこないですね……。
そういえば『親ゆびを刺激すると脳がたちまち若返りだす!』でも、最初におもしろい話が入ってましたよね。
親指は、他の指と「向き合う」ことができる唯一の指だとか、労災の認定で親指だけはものすごく金額が高いとか。
本の本筋とはちょっと違う話なんだけど、親指には興味がわく。
こんなふうに、興味をわかせる話をはじめに入れていくってことなんでしょうか。

黒川

うん、そうです。
そうやって本の「入り口」をドラマチックにしながら、「問い」を立てていくんです。
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池田

この編集筋トレーニングが「入り口」につながるというのは分かったんですが、どうしてそんなに「入り口」を気にするようになったんですか?

黒川

「入り口」をうまくつくると、中身への期待をぐっと高められるでしょ。
たとえば、レストランとか。
本をレストランにたとえると、本文は、料理にあたるよね。
料理自体がおいしいかおいしくないかが一番たいせつなんだけど、レストランに行くときに、店構えがステキだとか、看板が渋いとか、あとは店に入るまでのアプローチが石畳ですごく格好いいとかで、料理にたいしてもいい想像が膨らむことがあるでしょ。

池田

たしかに、ステキな門構えのレストランは、期待値が高まりますよね。

黒川

看板や、メニューを見ただけで、「もうここは、絶対にうまいだろうな」って思うことあるじゃない。
そういえばこの前、目黒の「とんき」っていう豚かつ屋に行ったのね。

池田

とんき。

黒川

あの豚かつ屋って、アプローチも何もなくて、店に入るとカウンター席がコの字になってるんだけど、カウンター席の後ろ側に、待つ人が座るための椅子が並んでるの。
それで、ここがすごく印象的なんだけど、普通の飲食店では、お店に入った順に奥から座って待つでしょ?

池田

はい、そうですよね。

黒川

そして、早く座っている人から順に呼ばれて、どんどん席を詰めていくよね。
だけど、あの店はその辺に適当に座ってくださいと言われるの。
だから、お客さんとしては、「あれ、自分は順番どおり呼ばれるのかな?」って少し不安になるんだよね。
だけど、どの順番で誰が来たかを完璧にわかっているおじさんが一人いて、ものの見事に順番どおり呼ばれる。
全部覚えているのか、メモしているのかわからないんだけど、その時点で、すごく期待が高まるんだよね。

池田

へー! それはすごいですね。

黒川

そういうことがあると、もう食べる前から、期待が高まる。
「人を順番どおり呼ぶプロフェッショナル」がいるってことは切るプロ、揚げるプロ、配膳のプロたちも凄腕だろうな、って想像しちゃう。
この店はただもんじゃない、って思えてくるんです。
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池田

たしかに。
そんなにプロ意識の高い人がいるお店なんだから、とんかつを揚げるのもすごいプロ意識に違いない、と思いますよね。

黒川

そう。そういう入り口が、中身を味わう気持ちを高めてくれるでしょ。
それからね、帰りにちっちゃいチョコレートをくれるの。

池田

どんなチョコですか?

黒川

ブラックサンダーだったかな。
原価とかにすれば大したことじゃないと思うんです。
でも、帰り際にそれを渡されるだけで、「また来よう」って思う。

池田

たしかに!
そういうちょっとしたことが、すごく印象的ですよね。

黒川

何てことないことなんだけど、そうやって「入り口」と「出口」にちゃんと気をつかうことで、中身がさらによくなる、ってことがあると思うんです。

池田

出口も大事なんですね。

黒川

うん、入ったときよりも、出たあとのほうが好きになっていることが大事なんじゃないかと思うんです。
レストランも、会社も、映画も、ドラマも、いっつも「入り口」と「出口」をどう作っているか気にしていて、いいな、と思ったら書き起こしたりメモしたりしますよ。

池田

へえ!それが「編集筋トレーニング」になるんですね!

黒川

“本は冒頭が大事”って、よく言われるでしょ。
だから、「はじめに」を書くときは気をつかうと思うの。
だけど、その著者をさらに好きになってもらったり、また次の本が出たら買ってもらったりするためには、出口がとてもたいせつです。
だから、ほんとは冒頭に使ってもいいぐらいのとっておきのネタをとっておいて「終章」「おわりに」に書いてもらったりします。
「なぜ自分は、これにこだわってきたのか」っていう想いを書くとかね。

池田

たとえば勉強法の本だったら、「おわりに」で、なぜ、この勉強法にこだわってきたのか、みたいなことを書くってことですか?

黒川

そう、すごく「個人的」なことを書く。

池田

個人的なことは、冒頭には書かないんですか?
本に込めた想いとか。
編集筋トレーニングとは少し離れて専門的なことを聞いてしまいますが、「はじめに」で、なぜこの話を私がする資格があるのか、どのくらいこれについて考えてきたのかという自己紹介を著者がしないと、本の信頼感が得られないんじゃないかと心配なんです……。

黒川

うん、「私は何の専門家なのか」「人の何を解決できるか」、
それは、最初のほうで話すほうがいいよね。
でも、そこに込めた「個人的な思い」みたいなものは、冒頭では必要ないように思います。

池田

えっと、つまり、「私は認知症の専門家で、認知症予防を二十年やってきました」とは最初に言うけれども、「実は私の祖母も認知症で」とか「私が医者になった理由は……」とかの、個人的な話は最後にするっていうことですか?

黒川

そうしてもらう場合が多いです。
結局、それって「原因」と「結果」の話だと思うの。
たとえば何万人を合格させたのか、何万人の手術をしてきたかというのは、「結果」だよね。
人が信頼をするのは、やっぱり「結果」だと思うんです。
とくにビジネスマンは、実績を見て、その著者が一流なのかどうかを見るから、まずは「結果」を書く。
そして、その「結果」をつくり出した「原因」があるでしょ。
自分のおばあちゃんが認知症だったとか、いじめにあって反骨心が芽生えたとかっていうのは、その結果をつくり出した「原因」の部分だよね。
その「原因」は、最後のほうに入れて、「だからこの人はこういうところにこだわってたのか!」という、人間性の部分をわかってもらって、本を終わらせる、っていうやり方をしています。

池田

入り口と出口でいえば、入り口が「結果や信頼性」、出口が「原因や人間性」ってことですね。

黒川

うん、まさにそうです。
目の前にお医者さんがいるなら、患者さんはそのお医者さんが「自分の目を見て話してくれた」っていうだけで信頼することがあるの。「この先生、とっても親身になってくれる」と。
でも、本は「文字」でしかないでしょ。
いい人かどうかより、まずは「2万件の心臓手術をして、成功率96.8%です」みたいな情報を最初に伝えないと信用してもらえないんです。

池田

ああ……いま、すごく腑に落ちました。
わたしたち編集者は、実際に著者さんに会って本をつくるから、著者さんの人柄みたいなものも含めて、信用しますよね。
だから「すごくいい先生なんです!」って読者に言おうとしてしまうんですけど、でも、読者が最初に聞きたいポイントはそこじゃない、ってことなんですね。

黒川

うん。まだ会ったことのない先生の様子を聞くときに、「すごく人柄がよい先生だよ」って言われても、「それはいいけど、わたしの病気治してくれるの?」と思っちゃうでしょ。
これは本も同じです。まず最初の関心事は、その著者が自分の問題を解決してくれるかどうか。
そのうえで、人柄や想いに共感できればファンになるんです。
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池田

うわあ、すごくよくわかりました。
きょうから「入り口」と「出口」をさっそく気にしてみます!
そして、長きにわたったこのインタビューなんですが、最後に、ついにあの質問を……。
黒川さんといえばこの道のプロといっても過言ではない、「本のPR」についての質問をしちゃおうと思います。

黒川

おお、そうなんだ。

池田

これも、全部教えてください!

黒川

はい、ここまできたら全部話しますよ。
今まで、あんまり言ったことなかったんだけど、うまく話せるかな。

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この記事を書いた人

池田るり子
編集者
栃木県出身。甘いもの大好き編集者。趣味は走ることと歌うこと。これからは、小説をたくさんつくりたいなと思っています。