実用書を読んでいるときに、「この本、編集者めっちゃ考えてるな」と思うことがしばしばあります。
特に売れている本には工夫があって「天才なの…」とか「ヤラレタ」とか、編集者の意図に感動することもしばしば。
今日は、ヒット本を編集の視点から読んでみたいと思います!
中野
『ワイン一年生』って本知ってる?
谷
知ってるよ! ワインの本なのに売れてて覚えてる
中野
そうなんだよ。ワインの本って、作るのも売るのも難しいじゃん
谷
棚がないもんね。せっかく作ってもどこに置いたらいいかわからないから、新書とか、ビジネスマン向けにしてビジネス書にするかって感じになっちゃうんだよね
中野
ワインの専門棚にワイン初心者の本があってもしょうがないしね
谷
わかる、入門本のジレンマ
中野
そんな中、この本は8万6千部を売り上げているそうです
谷
すごい!
中野
この本、ワインを勉強したい人にとってもすごく分かりやすいんだけど、編集者視点で見ると、本当に構成がすばらしくて、取材とか原稿整理とか、めっちゃ大変だっただろうなって担当編集の熟練を感じるんだよ
谷
絶賛ですな
中野
ワイン本のむずかしさって、順を追って話すのが難しいところじゃない?
谷
というと?
中野
たくさんの品種とか地方とかがあって、それと味を覚えるのがワインに詳しくなるということだと思うんだけど、素直に作ると品種と地方の羅列になっちゃうと思うの。そんな単語丸暗記っぽい本、初心者が読めるかな?
谷
その通りだよね…
中野
でもね、私、この本なら、さらっとひととおり読んだだけで、レストランでワインが注文できるようになりました
谷
すごいじゃん!
中野
それがさ、何度も言うんだけど、この本は構成がワインのことが覚えられるようによく考えられているんですよ。この本を、ぜひ編集という視点から見ていきたいと思います
中野
まずね、この本のすごいのは、読者が覚えやすいように流れができているところです
谷
実用書の大事なところだよね
中野
どうしても知識の羅列になってしまいがちな実用書に、ストーリーがあるのがすごいいんだよ。具体的にどういうことかっていうと、赤ワインと白ワインの基本の3種類さえがんばって覚えれば、ワインが大体わかるように作られているんだ。
中野
赤ワインはこの図の3つだけとりあえず覚えればいいし、
中野
白もこの3つの、計6つで、ワインがだいたいわかるようになっているんだ
谷
たしかに、これは全部聞いたことがある。ちなみにこれらは何なの?
中野
ワインの品種なんだって。ワインには、ボルドーとか、地方の名前もキーワードとしてあるけど、基本的にはこの品種6つを覚えておくといいんだって
谷
ふうん
中野
これによると、赤なら「カベルネ・ソーヴィニョン」、白なら「シャルドネ」を基準にしてワインを飲めばいいんだよ!
谷
なるほど。でも6つ覚えるの大変そうだな…
中野
そう、そんなワガママ読者のために、編集者が心配して覚えやすいようにキャラをつけてた
谷
ワインの擬人化は覚えやすい工夫なんだね
中野
この6つは、ワイン頼むときにどれかは出てくるメジャーなものだから、外で飲んでるときに自然と復習になって覚えやすいんだけど、私はもう外でピノノアール見るとこのキャラの絵を自然と思い出すの
谷
目の色が左右で違うんだね
中野
可愛いよね。ピノノアールを頼むと、このキャラも一緒に思い浮かんでるんだよ。フランス人が聞いたらさすがマンガ王国ニッポンだと思うだろう
谷
ストーリーとキャラがこの本の工夫ポイントなんだね
中野
最初の基準をひとつつくって、それを基準に3つ覚えるようにしたのが、発明ポイントだよねえ。だって、もうどんな味なのか飲んでみたくならない?
中野
この本には、まずは「カベルネ・ソーヴィニョン」を飲めって書いてあります
谷
カベルネ・ソーヴィニョンのキャラクターは優等生の男の子なんだね
中野
やっぱり「スタンダード」は優等生っぽいよね
谷
覚えやすいねえ
中野
でも、よくキャラクターにしたよね。イラスト入れるとそのイメージがつきすぎて読者の好みが割れちゃうことが心配になってイラストいれづらいんだよね
谷
わかる! でも、これはワインに関することを覚えるのが大変すぎて、もうそんな好みとかないよ。どんなタイプの絵柄でも親切すぎてありがたい
中野
なるほど。実用的な観点からキャラが入っているのか…。勉強になる
谷
こないだ、ビックカメラにこの本置いてるの見たよ。小冊子もついてたよ。本屋以外にどうやって流通してるんだろうね。しかも発売から結構たつのに
中野
この本の担当編集者にちらっと話聞いたところでは(担当者はサンクチュアリ出版の編集長の方です)、ビックカメラとドンキホーテに直接売り込んだんだらしいよ。ワインの本ってあんまり売れないだろうと担当編集がやったらしい
谷
すばらしいね
中野
ビックカメラとドンキだけで1万冊くらい売れてるらしいよ
谷
買取なのかな
中野
買取だって
谷
うらやましいですな
中野
うらやましいかぎりですね
谷
具体的にどうやって売り込んだんだろうか
中野
なんか、キャラクターを貸し出したらしいよ
谷
貸し出すってどういうこと?
中野
ボジョレーの解禁日とかに、ボジョレーに該当するキャラとか使って、店頭の盛り上げに使ってもらったらしいよ
谷
すごい! そんなこと思いつかん
中野
今他の量販店とかにも広がってるらしい。あと、大手のメーカーの研修本にも採用されてるんだって
谷
天才やな
中野
うらやましいかぎりですね
谷
そういう意味では、やっぱりイラストっていいんだね。置いてる小冊子とかもイラストがあるだけで急に見やすくなるもん
中野
キャラクターを有効利用してるんだね
中野
こんな風に名前を覚えると、お店で注文したくならない? 「カベルネ・ソーヴィニョンありますか?」とかね
谷
得意げだね!
中野
「カベルネ・ソーヴィニョンは王道の味だから」とか言ってみちゃったりして
谷
何かワイン通っぽい!
中野
それで、本の通りにいくと、カベルネ・ソーヴィニョンを飲んだ後に、「もっと軽いのみたいな」と思ったら「ピノノワール」飲めって書いてある
谷
わかりました
中野
逆に重いのがほしかったら「メルロー」を飲みましょう。メルローはおっとりちょっとぽっちゃりの女の子のイラストになってるよ
中野
そして、実際にこの3つを飲んだら、私が好きなのはピノノワールだということがわかりました
谷
実際に飲んでいくと、自分の好みがわかるんだ!
中野
なんかさ、私これまでざっくりと「辛口でちょっと重いの」ってお店で言い続けてきたの。だから、なんとなく本読んで、私が好きなのってメルローだと思ってたの
谷
たしかに「辛口でちょっと重い」ってみんな居酒屋でよく言ってる(笑)
中野
でも、ピノノワールがいろんな味がしておいしかったんだ。メルローは重かった
谷
あみちん、なんかワイン通っぽいよ! 私も飲んでみたい!
中野
そうなの! この本を持って、ワインを飲みにいきたくなるんだよ
谷
そう思わせるなんて、実用書として成功してるね
中野
ちなみに、あの表によると、白ワインの基本は「シャルドネ」なんだって
谷
あー、シャルドネ。CMで聞いたことある。ブドウの品種の名前なんだ
中野
「シャルドネ」よりスッキリしたかったら「ソーヴィニョンブラン」、甘いのが飲みたかったら「リースリング」らしいよ
中野
たとえばさ、お店でシャルドネ頼んだとするじゃん。それで、お店の人に「夏だからシャルドネですっきりなどいかがですか?」って言われると「あ、夏はシャルドネなんだ」ていう知識も追加されていくんだよ
谷
実践ですね
中野
もうひとつ、この本に「単一」と「ブレンド」っていうのがでてくるんだけど
谷
なにそれ
中野
「単一」は、ひとつの品種しか使ってないワインで、「ブレンド」はその通り、いろんな品種をブレンドしているものなんだって
谷
なるほど
中野
ちなみに、単一はチリとかオーストラリアの新世界に多くて、ブレンドはヨーロッパに多いらしいよ。まあ、それはおいといて、ブレンドには結構基本の6つの何かはまざってるから、知らない品種があってもなんとなく味の想像はつくようになってくるのよ
谷
すごい! 帰りに私ワイン買って帰ろうかな
中野
家で飲むなら、単一の新世界の方がいいんだって
谷
品種がひとつだから味がわかりやすそうだね
中野
それと、2000円以下で「今日は外したくない」っていうときに、だいたいおいしいんだって
谷
なるほど! そうなると、飲み比べしたくなるね~
中野
たしかに、比べて飲むのがいちばんワインに詳しくなりそう
この本のことをしゃべっているうちに、実際に飲んでみたくなったふたり。
次回は、『ワイン一年生』とともに実際に飲んでみます!
この記事を書いた人
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