【本屋大賞ノミネート!『コーヒーが冷めないうちに』】第4回 オビに入れるのは「ジャンル」と「共感」

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『コーヒーが冷めないうちに』が本屋大賞にノミネートされました。
実はこの本、編集を手掛けたのは『本日、校了!』のメンバーでもある池田るり子さん。
この本の作家でもある川口俊和さんは、小説を書くのは初めてだそうです。
それだけでも驚きなのに、なんと池田さんも、小説の編集は初とのこと。
そんな初めて尽くしの小説が、どうして43万部のベストセラーになったのか。
池田さんにこの本がどうして誕生したのか、どうして売れる本になったのかを徹底インタビュー。
最終回の今日は、カバーについてを聞いてみます。
どうぞご覧ください。

第1回 小説を書くのが初めての人の本が、どうやってベストセラーになったのか?
第2回 小説の編集で知っておくべきなのは「ジャンル」と「キャラクター」
第3回 売るために「販促チーム」をつくった
第4回 オビに入れるのは「ジャンル」と「共感」

カバーでも、「共感」を重視した

中野

 この本、カバーがすごくいいよね。私、この本を書店で見たときに、「あ、私この本買いたくないな」って思ったの。

池田

 えっ! なんでなんで?

中野

 これ読んだら絶対泣くって思ったから。もう、カバー全体から、「泣くぞ泣くぞ」っていうオーラが出てたよ。私、苦手なんだよ、泣かせものって。でも、ここまではっきり信号が出てたら、好きな人は絶対に買うよね。だから、このカバーから出ている「泣くぞ、泣くぞ」っていう雰囲気は本屋さんで見かけた人が正しくキャッチしたんだと思う。だから初速が出たんじゃないかな?

池田

 そうなんだ! そんなこと考えもしなかった……。「4回泣けます」ってオビに書いてあるからかな。ちなみにこの言葉は、最初はオビに入れてなかったの。でも、さっきのパネルにつけてたのを、書店員さんが見て、「この言葉を入れたほういいんじゃないかな」ってアドバイスをくれて。それで入れることにしたんだ。

中野

 へー! その人、すごい恩人だね! でも結局、るり子ちゃんが編集者という理由で買っちゃったんだけど、案の定、号泣したよ。

池田

 それはよかった(笑)

中野

 装丁もいいけど、オビネームもいいよね。これは悩まず決めたの?

池田

 そうだなあ。小説のオビなんて作ったことないからさ、家にある小説のオビをいろいろ見てみたの。それで、「共感」が大事なんじゃないかと思ったの。

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中野

 ここでも共感が出てくるんだね。

池田

 そうだね。誰しも「あの日をやり直したい」って気持ちはあると思ったから、「お願いします、あの日に戻らせてください」っていう言葉を入れて。あと、「家族と、愛と、後悔の物語。」は、誰もが心あたりがあるというか、自分に引っかかるポイントがあるんじゃないかなって思ってつけたよ。

中野

 小説のオビとマンガのオビって「なんでこれ入れるの? 謎だなあ…」としか思ったことなかったけど、そんなに大切なことが書かれてたんだね。

池田

 そうだね、あとは「こんなジャンルの本です」っていうのが分かるようにするのも大事なのかもしれない。これでいえば「タイムスリップ」だとか。

中野

 ジャンル! いやあ、小説にとってジャンルがいかに大切か分かってきました。

池田

 みんながどんな本か想像しやすい「記号」っていう意味では大切なのかもしれないね。

中野

 カバーデザインは、いつも実用書で頼んでいる人にしたんだね。

池田

 うん、一番町クリエイティブの轡田昭彦さん。『人生がときめく片づけの魔法』とかも手掛けている、凄腕デザイナーさんだよ。

中野

 これ、るり子ちゃんっぽいデザインだよね。引いてるのに、ちゃんと文字が見えるっていう、押しつけがましくないのにちゃんとわかるデザイン。でも、轡田さんはビジネスとか実用書が多いんじゃないの? 小説をたくさんやってる装丁家さんには頼もうと思わなかったの?

池田

 思わなかったな。やっぱり人と人が仕事するのには相性もあると思うし、初めての方に頼むよりは、ニュアンスを汲みとってくれる安心感がある轡田さんに頼みたいと思った。今回私はこういう気持ちで作っている、っていうことを伝えたら、轡田さんは絶対にわかってくれるから。

中野

 たしかに、ぴったりだよね。

池田

 あとで気がついてすごく感動したんだけど、この大トビラの絵をみて。カバーのイラストと同じかと思ったら、「コーヒーがひとつない」んだ。椅子もすこし開いているの。つまり、過去に行ったんだよ。

中野

 遊びごころ!

池田

 ちなみに『人生がときめく片づけの魔法』も、「き」と「け」の色が違うじゃん。これ、「きけ魔法」っていうことなんだって!

中野

 遊びごころ! サービス精神が高いデザイナーさんって、大体売れてるよね。ホスピタリティすごい人が多い。
それで、上がってきた案をどうやって決めたの?

池田

 3パターンだしてもらって、イラストとか写真とか、バリエーションがあったの。どれもすごくよかったら、最後の最後まで悩んだ……。

中野

 悩むよね……。

池田

 営業さんとも意見が分かれてて、めちゃくちゃ迷ったんだよね。書店さんにも何度もカバーラフを置きに行ってさ。

中野

 私も何度もラフを本屋にもっていくよ。

池田

 実際に競合する本と並べないと分からないよね。

中野

 やっぱり文芸棚に置いたの?

池田

 うん。文芸は、著者名ごとに棚がわかれている事が多いでしょ? だから「男性 か行」のところに置いてみた。だから、「北方謙三」さんとかの隣に置いてみた。大御所の隣に置くだけで緊張したよ(笑)

中野

 置いた感じどうだった?

池田

 とにかく、他の作家さんと並べて、違和感がある感じにしようと思ったの。すこし浮いて見えるようにしたくって。でも、迷ってた2案はどっちも、いい意味で違和感があったから、まだ悩み続けたよ(笑)

中野

 私は置きに行くと覚悟が決まって、「これだ!」って即決することが多いけど、まだ悩んだんだね。おもしろいな~。

池田

 そしたら黒川さんが、「ここまできたらどっちでもいいから、君がこの本に着せたい服を着せればいい」って言ってくれて。

中野

 イケメンだね!

池田

 その言葉を聞いたら、「それは、こっちです」とすんなり気持ちが決まったの。どっちがいいかとか、どっちが売れるかばっかり考えていた時は、答えが出なかったけど、「どっちの服を着せたいか」と言われたら、自分の気持ちだから、すぐに決められたよ。

中野

 読者の声って、オビに載せてるの以外にどんなのがあったの?

池田

 高校生から、「きのうふられました。でも、この本を読んで、明日から前向きに生きようと思います」っていうのが来たよ。なんかうれしかった。

中野

 なんか希望にあふれてるな……。私は後悔しないように生きようとちょっと切ない気持ちになったというのに。でも、いろんな年齢の人が、いろんな気持ちで読めるってことだよね。素敵な本だね!!

小説を初めて出した人がいきなり43万部、しかも本屋大賞も夢ではないなんて! 普段縁がないので、「小説の編集」について知るのがとても新鮮でした。いろいろ自分で調べてクオリティを上げていくなんて、優れた編集者ってどこのジャンルもいけるんだなあとも思いました。

新刊の第2弾も発売してますよ〜!

この記事を書いた人

中野亜海
編集者
愛媛県出身。読んだ人が「きゃー! やりたーい!」となる本をつくりたいと思っています。メイクから世界遺産まで何でもつくってます。趣味は三味線と江戸時代。尊敬する人は保科正之。