【ヒットメーカーに会ってみた!】鈴木萌さん第5回 タイトルってどうやってつけてるんですか?

Category: あう 0220ho_3114

連載【ヒットメーカーに会ってみた!】

今日のインタビューは、売れに売れた『フランス人は10着しか服を持たない』(72万部)を編集された大和書房の鈴木萌さん。
Advanced Style』(7.3万部)や『ニューヨークの女性の強く美しく生きる方法』(9.7万部)など、さまざまな女性エッセイ本を手がけられ、ヒットを連発していらっしゃいます。
女性向けジャンルのヒットメーカーって一体どんな人なの!?
そんな疑問に答えをみつけるべく、中野、谷、宮崎の三人で大和書房にお邪魔してきました!

第1回 売れる「女性エッセイ」でいちばん大切なのって何ですか?(前編)
第2回 売れる「女性エッセイ」でいちばん大切なのって何ですか?(後編)
第3回 企画がひらめくときって、どんなとき?
第4回 著者って、どうやって探していますか?
第5回 タイトルってどうやってつけてるんですか?
第6回 心に刺さるオビネームは「共感」

第5回 タイトルってどうやってつけてるんですか?

カバーは「タイトルが見える」よりも「全体の雰囲気」で目立っていたらいい

中野

『Advanced Style』の本の体裁みてひるみませんでした?
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鈴木

ひるみました。

中野

ひるみますよね。

鈴木

これ売れるの? って思いました。でも、契約の条件がオリジナルをそのままで出してほしいってことだったんです。本当は大きさを変えて編集したいなって思っていたけれど。

宮崎

じゃあカバーもそのままなんですか?

鈴木

一緒です。

確かに、これをA5版とかにして、ソフトカバーにしたらエネルギーがちょっときれるかも。

中野

まあ、結果的にオーライでしたけど、でもひるむなあ……。私だったらやめちゃうかも。

宮崎

2700円だしね。

勇気がありますよね。

宮崎

やっぱり本をつくってる観点からいうと、メリット追及したいじゃないですか。これ読んだら若くなったり、おしゃれになったりするとかがないと、売れないのかなって思いますけど、これはそういうことはないですよね。

中野

そうそう。ひたすら元気なおばあちゃんの写真を見るだけ。

80年代とか90年代のストリートスナップに近いですよね。ヴィヴィアンウエストウッドみたいな感じのかっこいい人がこれだけいて、しかもそれを特にきれいに撮ろうというんじゃなくて、ただ生きている様をバシッととるっていうやつですよね。

宮崎

そういう写真集って、売れてるのって今にはないよね。

中野

でもそういう市場というか、ブームはあるんだね。人間がいいって思うものって大して変わってないのかも。

宮崎

そのブームの「今版」を出せば売れるのかも。

寄りで手を撮ってるのとかがあるじゃないですか。そこにすべてが凝縮されているのが好きです。ポイントポイントで見開きであって、すごい写真だなって思います。写真集にしては安いし……。

鈴木

写真を勉強している苦学生でも買えると言われたことはあります。

宮崎

そういう写真を勉強している人に響くのはわかるんですよ。でも、一般の女性にこれを売るのは、ちょっとひるみますよね。どうしてやることにしたんですか?

鈴木

たしかに、ちょっとやめようかなって思ったんですけど、最初の印象が本当にすごくて。「かっこいい」って強烈に思ったんですよね。あの気持ちを無にしたくない

中野

なるほど。やっぱり最初の印象ですね。

鈴木

そうかもしれないですね。自分の気持ちは大切にします。

中野

あの、このタイトル、「変えたい!!」って思いませんでした?

鈴木

いやあ、タイトルはそのままがいいって思ってました。

中野

英語のままで? Advancedって意味がわからない人多そうですよね。

鈴木

そっか、読めないですね。

中野

これ、何で筆記体なんですか? ブロック体にしたいとか思いませんでした?

宮崎

ルビを振ろうとかも思いませんでした?

鈴木

確かに読めないですよね……。

宮崎

でも、この感じが新鮮だったんですね。

中野

きっと全体の雰囲気が読者にささればいいんですね。タイトルじゃないんだ。「かっこいい」だけ伝われば。そしたら、デザイン重視でブロック体よりも筆記体の方が良さそう。

カバー全体から、この本の雰囲気が出てたらいいんでしょうね。家に置いておきたくなる感じ。絵と同じですね。

中野

しつこいんですけど、本当にタイトルの意味、パッとわからなくてもいいやって思いました?

鈴木

多分中に書いてあるから大丈夫かなって思いました。

中野

す、すごい! 中に書いてあるから大丈夫…!

鈴木

みんな読者をバカにしすぎだと思うんですよね。よくカバーとかで、言われるじゃないですか、肩書を書かないと、とか。でも、ちゃんとお金を出して買うんだから、しっかり見るにきまってるじゃんって思いません?

タイトルだけ見て買うわけじゃないですもんね。

中野

ビジネス書って、「タイトルの文字だけ」っていうカバーが多いんだよ。「タイトルを届かせる」っていうのが大切なの。でもきっと、女性ものってそうじゃなのかも。もっと、ビジュアルを含めた印象なんだよね。

タイトルは、2ヶ月くらい考える

宮崎

タイトルを決めるときって、どんな感じで決めていますか?

鈴木

タイトルも帯もそうなんですけど、ゲラを読みながら印象的な言葉をメモしています。そのとき大切にしているのが、この本を誰に読んでほしいかを考えながらやることです。

誰に読んでほしいか。すごい、原点ですね。

中野

ちなみにそれって初校の段階で決めます?

鈴木

タイトルはすごく遅くなります。カバー要素をデザイナーさんに送るぎりぎりのタイミングまでになります。焦るのが嫌いなんで、スケジュールはきっちりしてる方だと思うんですが……。

鈴木

だから、一応余裕をもって、自分でここらへんかなっていうのを決めて、そこまで引っ張ります。

中野

たとえば思いついたあとに一日空けたりとかしてます?

鈴木

一日に一時間とか30分とか考えて、違うことして、あと2日後にもう一度考えたりします。

中野

それ、どのくらいの期間考えてるんですか?

鈴木

2か月くらいです。

中野

長いですね! ゲラを読む前から考えてるんですね。

鈴木

すごい考えちゃうんですよね。タイトルがいちばん苦手で。

中野

『フランス人は10着しか服を持たない』って、どうやってつけたんですか?

鈴木

これ、原題は『Lessons from Madame Chic』っていうんです。それで、最初デザイナーさんとの打ち合わせの時、タイトルを『パリのマダム流 シックに暮らすレッスン』で持って行ったんですよ。そしたら、「これって年配の人向けの本ですよね?」って聞かれました。
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中野

デザイナーさんの素朴な意見!

鈴木

それで「いや、違います」って言って、まずいと思ってタイトルすごく考えました。本全体を表すタイトルだとすごくぼんやりするから、見出しから面白いものをとろうと思って。

宮崎

他に候補に挙がったのって何ですか?

鈴木

「フランス人は間食をしない」とか「フランス人は物を買わない」とかでした。フランス人ってすごくおしゃれな印象があるじゃないですか。服をたくさん持っていそうなのに、服が少ないっていうのが面白いなと思ってこれに決めました。

中野

V字理論ですね!

V字理論って何?

中野

うちの会社でよく言われるんだけど、たとえば『1%しか知らない100%の〇〇』みたいな、逆のことをひとつのタイトルに入れる手法だよ。

鈴木

見出しの中のひとつをとるっていうのも、タイトルのつけ方でありますよね。

中野

まさにフランス人10着はその両方の理論だったんですね。

鈴木

中野さんのタイトルってすごいインパクトありますよね。あれどうやって思いつくんですか?

中野

いや、毎回よくわかんないんですよね。私もゲラ読んだあとにすごく考えて、企画書からすごく変わっちゃうことが多いんです。いちばんやるのは著者とケーキを食べます。

鈴木

何それ、面白い。

中野

女性実用をつくる場合によくケーキ食べるんですけど、元々本の性質が女子会っぽいんですよ。でも、タイトル考える時期って、ゲラも戻さなきゃだし、いちばん切羽詰まっている時期だから、余裕がないじゃないですか。だから、最近はケーキを食べる時間を2時間くらいとって、お茶会にしてわいわいタイトル案をフリーディスカッションします。

宮崎

そろそろタイトル決めたいなってときに。

中野

ケーキ食べませんか? って。そこでとにかく玉石混交でたくさん出してもらって、帰ってゲラみながら悩んでまとめる感じです。

宮崎

それ、著者とふたりで?

中野

ライターさんも入ってくれることがあるけど、神崎さんのときはふたりきりだったな。『美しくなる判断ができる』は著者とマネージャーさんと私の3人だった。人数は多い方がいいんだろうか……まだわからない……。

鈴木

でも女子会って納得です。読んでて、楽しい感じがするんです。

中野

ありがとうございます。鈴木さんはひとりで決めてるんですか?

宮崎

上司は?

鈴木

ひとりで決めます。決めたあとに、これで行きたいっていいます。でも、すごく悩んでいるときは「どうでしょうか?」って聞いたりします。

私も鈴木さん形式だな。個人主義です。一応社長にこういうタイトルでいきたいって話はしますけど……。

宮崎

鈴木さんはタイトル決める最後のときって、どうやって決断してます?

鈴木

誰かに意見は聞きますけど、結局えいやって決めますね。もし売れなかったときも後悔しないように。

中野

時間が迫ってきたら、えいやって決めるんですね。

宮崎

『ニューヨークの女性の強く美しく生きる方法』のエリカさんって、カバーに何も肩書を入れてないじゃないですか。あれってどうしてですか?

中野

「エリカって誰!?」って思ったもんね!

鈴木

わざとというか……。プロフィールに書いてあるから。

この写真の人はエリカさんではないんですよね?

鈴木

よく言われます。

宮崎

そのくらい、エリカって誰? って感じがするよね。

鈴木

私、本買うときにそんなに肩書き気にしないので、プロフィールに書いてあるからいいだろうって思うんですよね。

中野

なるほど…!

中野

プロフィールに書いてあるから入れない! ビジネス書だと絶対にない考え方だ。私、前の会社でいちばん最初に習ったのが、「肩書きは何よりも重要」です。

もっと自由でいいんですね。

まとめ
〇タイトルは、カバー込みで「雰囲気で目立てばいい」

次回、最終回です! 心に刺さるオビネームは「共感」

この記事を書いた人

中野亜海
編集者
愛媛県出身。読んだ人が「きゃー! やりたーい!」となる本をつくりたいと思っています。メイクから世界遺産まで何でもつくってます。趣味は三味線と江戸時代。尊敬する人は保科正之。

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