編集者の高橋和記さんに、積ん読本を見せていただいたvol.1。
vol.2では10年間の封印を解いて『読んでいない本について堂々と語る方法』を実際に読んでいただきました!
そして、とってもまじめに「なぜ積ん読は生まれるのか」について高橋さんが分析してくださったお話もうかがってきました。これを考えたところで、積ん読はなくならないだろうな。
ま、なくならなくていいんだけど。
そんなことを思いながら、話し合ったのを思い出します。
では、どうぞ!
谷
じゃあ、『読んでいない本について堂々と語る方法』、ちょっと読んでみてください。
高橋
(パラパラ……)
おっ、目次、結構おもしろそうですよ。
「大勢の人の前で」「作家を前にして」「愛する人の前で」とか。
谷
へええ!
誰に向けて堂々と語るかを分けてるんですね。
高橋
「心構え……気後れしない」
谷
気後れしない!
たしかに気後れしたら「あいつ知らないんだ」って思われそうですもんね。
「堂々と語る」と宣言してるだけあるなあ。
高橋
目次の続き、読みますね。
「自分の考えを押し付ける」「自分自身について語る」
谷
えっ、自分自身について語る?
あ、なるほど、そうすれば、本の内容に触れないですむっていうことか……。
すごい、けっこう実用的ですね。目次だけでも気になります。
じゃあ、ちょっと黙ってるんでしばらく読んでみてください。
高橋
はあ……これ、けっこう長いな……。
見出しのあとに翻訳本にありがちな、気取った引用文がありますね。ちょっと、読みますよ。。。
「大事なのは、しかじかの本を読むことではなく(それは時間の浪費である)、すべての書物について、ムージルの作中人物が言う「全体の見晴し」を掴んで……」
……うーむ。ちょっと何言ってるかわからない(笑)
こういうとこで、読むのやめちゃうんだろうな。むずかしく感じて。
谷
えっ! これ、1行目では……?
高橋
だって、「大事なのは~」とか言ってるくせに、カッコを多用してもったいぶった言い回しにしてるのがさ……。
「ムージル」のとこで本を閉じたくなります。「ムージルって何よ? 誰よ?」って。
「ほほぅ、ムージルか、なるほど!」ってならないでしょ。
谷
ならない。ムージル。わかんない。
そっか、「むずかしい」「わからない」ところで思考がストップしちゃう。だから、「もういいや」ってなって、そのまま放置しちゃうんですね。
高橋
そうですね。もちろん多少むずかしい本でも、文脈とか用語を知ってるものだったら、すんなり読めるんですよ、趣味の本とか、仕事に関係する本とか。でも、たとえば「ローマ帝国の制度」とか「昆虫の羽の進化」の話とか、そういうのはすごい読みにくいんですよね。
谷
あああ、たしかに、前提となる知識がないですしね。
自分とのブリッジになる言葉を知らないから、概念がうまくつかめないのかもしれない。
高橋
ほんとは、そういう遠い世界の話って「同じ物事も違う角度から見るとこう見えるんだ」とか新しい視座を増やしてくれるから好きなんです。興味はあるんですよ。
でも、まったく知らないから、やっぱり読みにくいことには変わりない。
だから、ちょっと背伸びして買った系のやつは、積ん読になりやすいかもしれませんね。
谷
ああー、背伸びしても、ちょっと届かないなって思ったら、読むのやめちゃう。それはあるかも。
高橋
映画とかでも、名作の『シンドラーのリスト』とか『2001年宇宙の旅』とか、長くて重い気がするから、なんとなく構えなきゃいけないじゃないですか。姿勢を正して、腕組みながら、真剣な顔で鑑賞しないといけないような。
一方で、85分くらいのゾンビ映画や、『シャークネード』みたいなB級アホ映画とかは、一気に観られる。スナック菓子片手にふんぞり返りながら観ても許される。
谷
うんうん、敷居の低さを感じるもののほうが気楽に見られますもんね。
あ、そういえば前回の「字が多い」問題にも通じるんですけど、パッとめくって「字が多い」って思ったときって、長くて重たい映画を見る前の「構え」に近い心情なのかもしれません。
「これからすごいの来るぞ。覚悟しとけ」っていう。
高橋
そうそう。「覚悟」「構え」「期待」ってそれなりにエネルギーを使います。好きなものとか、ライトなものだったら、そんなにいらないですよね。
高橋
あのー、ちなみに、この取材を受けるにあたって、メモを作ってみたんで、それ見ながらしゃべっていいですか? せっかくの機会をいただいたので、積ん読について考えてみました。
谷
(レポートを渡され……)えっ!
そんな……何これ、すごいんですけど!!! 研究…?
わざわざありがとうございます。
高橋
なんで積ん読になったかっていう理由を分解していくと「なぜ買ったか?」と「なぜ読まないのか?」この2つの掛け合わせだと思うんですよ。
谷
はい、はい。
高橋
積ん読って、この左上になるんですよね。「なぜ買ったか?」については、人によってさまざまでしょうが、共通しているのは、何かしら興味があったからだと思います。
谷
そうですね。読まなきゃいけないって義務も含め、何かしらの関心があったはずだ、と。
高橋
はい。じゃあ、買ったのになぜ読まないのか?
谷
えっと……何かが読むのを拒んだ。「何か」って何ですか?
高橋
その「何か」って、だいたい「時間」だと思います。「読む時間がなかった」
で、「時間がない」を、もうちょっと深掘りすると、僕の場合つぎの3つでした。
高橋
そもそも本には2種類あると思ってて、単に娯楽だったり情報を得るタイプと、新たな視点や視座というか、自分の立ち位置そのものの座標を変えてくれるタイプです。
谷
ふだんの延長で読むものと、別の世界を知るために読む本ってことですか?
高橋
はい。たとえば、僕にとっての前者は、文章がうまくなるとかヒット企画の作り方みたいな本とか、テクノロジーでこれからの世の中はこうなるとかです。近い将来か、明日の自分に速攻で役立ちそうな身近な話。
後者は、硬派なノンフィクション。ブラックホールがどうのとか、中世のトイレ事情とか、絶対勝てる陣形とか、遠いどこかの誰かの話。明日まったく役立たない。
谷
役立たない(笑) でも、おもしろいのって、それだけで価値ですよね。
高橋
はい。おもしろそうだけど、一見、役に立ちそうにない。
もしかしたら死ぬまで一生役に立たない。
だからこそ心によぎる、「何も、今読まなくてもいいんじゃないか?」
谷
逆・林先生ですね。
高橋
「今じゃないでしょ」……って、何やらせるんですか。
まあその、逆・林先生が出てきちゃって、ついついこういう本は後回しにしてしまいがちです。こういう本を後回しにしてしまうということは、僕が俗にまみれた証拠ですね。
谷
林先生を連れてこないとですね。
高橋
林先生は忘れてください。
高橋
積ん読になりがちなタイプの2つめは、いつかは読みたいなーとぼんやり思っていたり、学生時代など過去に読めなかったりした古典などです。
谷
それってたとえば「死ぬまでに読みたい○○」のリストに入ってそうな本ですか?
高橋
あー、まさにそれですね。
たとえば、さっきもいいましたけど、「映画史に残る名作」みたいなのあるじゃないですか?
谷
『ニュー・シネマ・パラダイス』とか……?
高橋
そう、そういうの。そういうのって長いですよね、120分とか150分とか。
名作だから長いのか、長いから名作なのか知りませんが、ホラー映画好きとしては『IT』は観ないとな、と思いつつも3時間以上もあるので、とりあえず今日は疲れたから90分くらいで終わる『ロンドンゾンビ紀行』観ちゃうみたいな。
谷
ロンドンゾンビ紀行っていったい……。
ゾンビがロンドン旅する映画ですか?
高橋
まあ、そんなところです。
映画はできれば85分くらいがベスト。100分越えると黄色信号。本も200ページくらいがいい。300ページ超えてくると、ちょっと……。
谷
身構えちゃう?
高橋
ですね。編集者としてはどうかと思いますが(笑)
それなりに評価が固まっている名作や大作はちゃんと対峙しないとならないから積まれやすい。
逆に、トイレでちょい読みできたり、電車で立ちながら読めるくらいのものは、積まれにくいですよね。
谷
さっき出てきた「覚悟」「構え」「期待」があるものは積ん読になる、の法則かあ。
高橋
本に限らず、リアルなお店のすごいところは、見せ方次第で商品の魅力が3倍くらいになる。
谷
あります、あります! 思わず買っちゃう。
高橋
それで、お店で見て思わず買っちゃったけど、家に帰って開いたら、ありゃ? て本。“Why did I buy this”って感じです。これは文句なしにそのまま積まれちゃう。
書店員さんの陳列勝ち。
谷
陳列勝ちですね……。やられた! っていう。でも、気持ちいい「やられた!」ですよね。
もしかしたら買ったところで、この本の役割は完結したのかもしれないですね。
高橋
そういうものもありますよね。
タイトルとか、たたずまいだけでもう影響を与えられてるから、読まずとも……って、これ、なんか積ん読を奨励する内容になってません?
次回3回めで最終回。
完結編☆となるvol.3では、こちらも長年積ん読されていた『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』を読んだ高橋さんの感想をうかがいました。
【あなたの「積ん読」見せてください】[目次] |
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【あなたの「積ん読」見せてください】vol.1 コレクター気質の音楽好き編集者、高橋和記さんの積ん読 |
【あなたの「積ん読」見せてください】vol.2 なぜ、積ん読は生まれるのか? を分析してみた |
【あなたの「積ん読」見せてください】vol.3 「字」が買う決め手になったけど、字のせいで積ん読 |
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