連載【ヒットメーカーに会ってみた!】
今日のインタビューは、売れに売れた『フランス人は10着しか服を持たない』(72万部)を編集された大和書房の鈴木萌さん。
『Advanced Style』(7.3万部)や『ニューヨークの女性の強く美しく生きる方法』(9.7万部)など、さまざまな女性エッセイ本を手がけられ、ヒットを連発していらっしゃいます。
女性向けジャンルのヒットメーカーって一体どんな人なの!?
そんな疑問に答えをみつけるべく、中野、谷、宮崎の三人で大和書房にお邪魔してきました!第1回 売れる「女性エッセイ」でいちばん大切なのって何ですか?(前編)
第2回 売れる「女性エッセイ」でいちばん大切なのって何ですか?(後編)
第3回 企画がひらめくときって、どんなとき?
第4回 著者って、どうやって探していますか?
第5回 タイトルってどうやってつけてるんですか?
第6回 心に刺さるオビネームは「共感」
鈴木
私は、自分が面白いなと感じたことだけを企画にしようと心に決めてます。
中野
というと?
鈴木
私、夫に情弱ってよく言われるんですよ。
中野
情弱ってなんですか?
谷
情報弱者だよ。
宮崎
あみちん、情弱もわからないほどの情報弱者……。
中野
えへへ。
鈴木
あんまり世の中のことを知らなくて。最近焦って勉強しようとしてるんですけど。
中野
そうですか? フランスとかニューヨーク好きとか、趣味が多そうですけど。
鈴木
はい、たしかに自分の好きなことから企画が生まれることは多いんですけど。
中野
仕事に結実してる感じあります。
谷
情弱っておっしゃってますけど、フランスもニューヨークも女性に人気の本のジャンルとしては普遍的な感じがありますよね。守られている感じがある。
宮崎
ニューヨーク以外で、あとは何が好きなんですか?
鈴木
ヨガと料理と映画です。あとごはん食べるのと。普通ですよね。
中野
めっちゃいいじゃないですか! 女性ジャンルの王道ばっかり(笑)。
ニューヨークはいつから好きなんですか?
鈴木
中学生の頃からです。
中野
セックスアンドザシティのはるか前からですね! 中学生からって長すぎですね。
鈴木
好きになったら長いんですよ。だから、自分からかけ離れたことはできないタイプだと思います。
谷
普遍性がありますよね。それだけ好きだったら、同じフランス本つくってもワクワク感が違いそう。
中野
突然だけど、私、谷さんの得意ジャンルって「子ども」ジャンルだと思うんだ。童話っぽいつくりができるというか。それをスライドさせてつくったレシピ本の『一日がしあわせになる朝ごはん』もヒットしたもんね。
宮崎
あれも似たようなものが出てるけど、やっぱり谷さんのは売れるもんねえ。
中野
自分の得意ジャンルを深堀りするのって大事なんだね!
谷
その編集者の「心から好き」ってにじみ出るのかもね。著者だけでなく。
鈴木
でも、「優秀な編集者何つくっても売れる説」あるじゃないですか。
谷
あるある!
宮崎
あれって本当なんですかね。
中野
ちなみに、三浦さんはその説反対だそうです。(※三浦さんの前の会社は鈴木さんと同じ)得意じゃない本の版権取らないって言ってた。
谷
じゃあその説信憑性なくなってきたね。
中野
うちの会社に、ジャンル問わずヒットさせる人がいるんだけど、彼は「人」が得意なんだよね。キャラが立ってる人をプロデュースするのがすごく上手だから、ある意味それが得意ジャンルともいえるのかも……?
宮崎
その編集者が何が好きか、わくわくするのかを感じ取ったものをそのまま本になったときに表せられれば、その本は成功するのかもしれないね。
谷
編集者は最初の読者とはよく言ったもんだね。
鈴木
話戻るんですけど、ニューヨークが好きすぎて、ガイドブックもつくりました。『歩いてまわる小さなニューヨーク』という本です。
一同
可愛い!!
宮崎
これは純粋なガイドブックなんですか? わ、4刷って書いてある!
鈴木
そうです、ガイドブックです。
中野
ガイドブックって、専門芸っていう印象がありますけど、つくるの大変じゃなかったですか? お店にアポ入れたり情報に間違いがないか確認取ったり地図つくったり……。
鈴木
無知だからできたっていうか……。現地に行けなかったので、フランス在住の著者の方に取材はお願いしたんです。地図は作成しましたが、何もわからないところからだったので地図製作の方に色々教えていただきながらやって。
中野
見習います! 知らないジャンルってついハードルが高くなっちゃって。
鈴木
本当はこれ、第一弾がパリなんです。
中野
パリなんですか! やっぱりフランス本当にお得意なんですね。
鈴木
最初はガイドブックをつくるつもりはなかったんですけど、著者の方に話を聞いているとガイドブックがいいかなということになったんです。パリが売れたので、ロンドンやニューヨークも出していいとなりました。
谷
しかし、ガイドブックというすでに確固たるシェアがあるところで、そんなに売れるってすごいですよね。
中野
好きなテーマだったらガイドブックでもどんなジャンルでも売れるかもしれないってことでよいでしょうか。
谷
企画を柔軟に考えて他ジャンルもトライしていいんだね。
中野
鈴木さんのすごさは、自分が好きだというワクワク感自体を形にできるところなのかも。
鈴木
実は、大学のときにドトールでバイトしてたんですけど、クビになったんですよ。ドトールを。
中野
ドトールのバイトってクビになることあるんですか?
鈴木
めったにないと思うんですけど、お客さんが帰る時にトレーを返却してくれるじゃないですか。そのときに、「恐れ入ります」って言わなきゃいけないんですけど、それが恥ずかしくて、どうしても言えなくて。
中野
恥ずかしくてなんですね。
鈴木
そういうマニュアルっぽいことができなくて、オーナーに「あなた向いてないからやめた方がいいわよ」って言われました。
宮崎
ドトール、クビになるってあるんですね。あ、この質問2度目だ。
中野
マニュアルが苦手だからしょうがないよ。
中野
出版社は、何で受けようと思ったんですか?
鈴木
接客じゃないし、本も好きだしで受けたんです。当時、山田詠美さんがすごく好きで、そのエッセイで編集者という仕事があることを知って。
中野
あ、もしかして山田詠美さんの『熱血ぽんちゃん』ですか? 私も好きです。編集者がいっぱい出てきて、こういう仕事面白そうって思ってました。
鈴木
ですよね!あと、椎名誠さんの青春三部作も、編集の仕事面白そうって思って読んでました。そして、入社してすぐ、女性エッセイコーナーに連れていかれたんですよ。恋愛本とかいっぱい並んでるところ。それで、こういうのを作るんだよって言われて、自分が恋愛本とか女性書を一冊も読んだことがなかったので、正直絶望しました。
中野
あはは
谷
チェーン店が向いてないから、こういう本がつくれるんですね。
中野
なるほど、うっかりするとチェーン化してしまう編集者がいる中、していないですね。
谷
独自の小売店を出されている。
鈴木
実は、入社して最初につくった本って、ある芸能人の対談なんです。
中野
鈴木さんから想像がつかない。何でだそうと思ったんですか?
鈴木
もともと、どこかのサイトで、寄せられたお悩みにふたりが答えるっていうのがあって。最初に、上司に「何かすぐ本にできるコンテンツを見つけなさい」って言われていたんです。
中野
なるほど。
鈴木
単行本がない雑誌の連載とかが、早く本になっていいよと言われて出しました。
中野
上司のお題に答えたんですね。
鈴木
それからも、売れている本を真似しなさいって会社から言われて、いっぱい真似をして頑張ったんですけど、どうも全然売れないんですよ。
中野
チェーン店向いてないから……。
鈴木
入社して5年くらい、本当に何も売れない暗黒の時代が続いて、当時妹と住んでたんですけど、「死にたい、死にたい」ってずっと言ってました。
谷
まさに暗黒だ。
鈴木
それで、やっぱり自分には真似するの向いてないし、どうせ売れないならやりたいことをやろうって思ったら、結構良くなりだしたんです。
中野
自分の感覚を大切にすることって、鈴木さんにとって、命綱なんですね。こうやって、フランス人10着が生まれたんですね。
「売れる女性エッセイ」でいちばん大切なこと まとめ
・自分の得意ゾーンを大切にする
・ポイントは、自分の好きだというワクワク感が、読者に伝わるように本にすること
第3回 企画がひらめくときって、どんなとき? に続きます!
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