連載【ヒットメーカーに会ってみた!】
今日のインタビューは、売れに売れた『フランス人は10着しか服を持たない』(72万部)を編集された大和書房の鈴木萌さん。
『Advanced Style』(7.3万部)や『ニューヨークの女性の強く美しく生きる方法』(9.7万部)など、さまざまな女性エッセイ本を手がけられ、ヒットを連発していらっしゃいます。
女性向けジャンルのヒットメーカーって一体どんな人なの!?
そんな疑問に答えをみつけるべく、中野、谷、宮崎の三人で大和書房にお邪魔してきました!第1回 売れる「女性エッセイ」でいちばん大切なのって何ですか?(前編)
第2回 売れる「女性エッセイ」でいちばん大切なのって何ですか?(後編)
第3回 企画がひらめくときって、どんなとき?
第4回 著者って、どうやって探していますか?
第5回 タイトルってどうやってつけてるんですか?
第6回 心に刺さるオビネームは「共感」
中野
今日は鈴木さんに、本当にお会いしたかったんです。インタビューを受けてくださって、ありがとうございました。
鈴木
いえいえ、お話するのが苦手なのでどうしようかと思ったんですが、座談会みたいにワイワイ話すことにしてもらえるのだったら、大丈夫かなと思いまして……。今日はぜひ、私からも質問をして、いろいろお話しできればと思います。
中野
鈴木さんは私たち本日、校了チームとつくっている本が似ていることもあって、たくさん聞きたいことがあるのですが、まずは何といってもこちらです。
中野
日本にたいへんな旋風を起こした『フランス人は10着しか服を持たない』についてまずお伺いしていきたいです。今何部ですか?
鈴木
えっと、72万部だったかな…?文庫が10万部です。
中野
これって、どういう経緯で出すことになったんですか?
鈴木
エージェントさんに、「フランスの暮らしものをやりたい」ってオーダーをして、紹介してもらいました。
宮崎
へぇ。「フランス」「暮らし」っていうのは決まってたんですね。
鈴木
フランスの暮らしものって、根強いファンがいるように思っていて。それでお願いしました。
中野
その辺は、やっぱり女性エッセイをたくさんやっている蓄積というか、カンみたいなのがあるんですね。
鈴木
版権を取るときに、「これが売れそう」っていう判断は、日本の本と同じ判断軸でしてます。そういう意味では、日本語の本の編集が役だっているのかもしれません。
中野
たしかに、「物のないくらし」っていうテーマは定番で、何年かに一回ベストセラーを出しますよね。追っておくべきジャンルなんですね。
鈴木
でも、出すまで、この本が物のないくらしの本だって思ってなくて、出版後に営業部に「片付けとか断捨離の流れですよね」って言われてそうだったのか! と思いました。
中野
じゃあフランスの暮らしものっていうざっくりしたテーマが主だったんですね。
ちなみに、版権とるときって、どこか別の出版社と競合しました?あと、高かったですか?
鈴木
実は全然競合していないんですよ。実はこの前に、競り負けた本があって、それがかわいそうだからっていうのでエージェントさんが紹介してくれました。
中野
翻訳書を、よし取ろう! って思うときの基準はありますか?
鈴木
まずは、日本語にしたときに、ちゃんと本になるかですね。
中野
というと?
鈴木
物理的な問題なんですが、英語って、翻訳すると膨らんじゃうんですよ。それに、もともとすごい分厚い本も結構あるので、英語で300ページあると、かなり編集して薄くしないといけないです。
中野
そこって大切なんですか?
鈴木
大切ですよ。削るのはすごく難しいんです。もちろん、日本語で500ページとか600ページになる分厚い本とか、上下巻にしたりする本も良いと思うんですが、やっぱり暮らしもので500ページの本となると、敬遠する読者も多いと思います。定価も高くなりますし。
中野
たとえば、いまここに、内容がすごくよくて多分売れそうで、でも分厚い本あったらどうします?
鈴木
テーマと読者次第なのかなと思います。たとえば、世界史とかだと分厚くても網羅されていそうだと思って、読者は読んでくれそうですよね。あとは実用っぽいテーマでも、たとえば「チーズをおいしく食べる方法を500通り教えます」みたいな、それがいっぱいあるほうが魅力的という本は厚いほうがいいと思います。
中野
読者層次第なんですね。
鈴木
でも結局、内容がいいか、売れるかって、確信を持っては本当に分からないんですよね。難しいです。
中野
70万部出しておいて、わからない。この本、私読んでて、「実用書じゃないな」って思ったんです。どちらかというと、女性エッセイですよね。
宮崎
わかる! これ、読んだからと言って、英語がしゃべれるとか、おしゃれが上手になるってわけでもないですよね?
鈴木
はい、気分があがります。
中野
もちろん、実用もあるんですけど、やっぱり、読み物として楽しいっていう面が多い気がします。その決め手は何ですか?
鈴木
わかんないです! それは、読み物として楽しいかを原稿を見て判断するしか(笑)
宮崎
でも、そういうのって、企画が立ちづらくないですか? 例えば、企画会議で、「結局この本ってどういう本なの?」って聞かれません?
中野
その質問企画会議でもっともよく聞かれるよね(笑)
宮崎
「いやあ、女性のテンションがあがる本」です。って答えたら通りにくいような……。
鈴木
そうですよね。そうか。
宮崎
どうやって企画書に落とし込むのでしょうか? 女性エッセイって。
鈴木
女性エッセイっていうより、自己啓発として書いている気がします。ただ読んで楽しかっただけじゃなくて、「自分の人生をこうしよう!」って感じになるというか。
中野
でも、やっぱり鈴木さんの手掛けられる本は、自己啓発じゃなくてエッセイ感が強い気がします。なんていうか、「読みものとして役にたつ」よりも「楽しい」んです。読書が楽しい。
鈴木
ありがとうございます。この場合は多分「フランス」が強いんです。私、昔から外国が好きで、まあ、フランスが特に好きなわけではないのですが、売れた企画も結構そのあたりのテーマのものが多いんです。
中野
そうなんですか。
鈴木
『フランス人は10着しか服を持たない』も、企画書の類書に吉村葉子さんの『お金がなくても平気なフランス人、お金がないと不安な日本人』っていう本をつけました。『ニューヨークのとけない魔法』とか。
中野
あれが類書なんですね。完全に書店の置かれる棚がちがうじゃないですか!
鈴木
全然違うって営業がいいそうな(笑)
中野
でも、鈴木さんの中ではあれが類書なんですね。私、『フランス人は10着しか服を持たない』で面白かったのって、フランスに留学したらこんな感じなのかなってところだったんですよ。留学した雰囲気が味わえる。
鈴木
確かに、それもあの本の面白さです。
中野
それも狙ってました?
鈴木
フランスの生活の楽しさを、フランス人じゃない人が書いてるよさはあるって思っていました。
中野
でも、これが売れてるからってフランスやニューヨークの本を真似して出しても、売れるとは限らないんですよね……。
谷
そうなんだよね、別の編集者が同じテーマでやっても売れないことって多いよね。それって何だろうね?
この記事を書いた人
RANKING