人の積ん読、のぞいてみたい! という願望から始まったこの企画。
編集者の高橋和記さんの積ん読訪問、完結編☆となるvol.3では、
高橋さんが、事前に読んでくださった積ん読本についてうかがいました。「字が小さすぎて、読めなーい……!」
高橋
それでじつは、もう1冊、積ん読されていた本を読んでおいたんですよ。
谷
読んでいただいた! ちなみに、どんな本ですか?
高橋
『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』です。
谷
き、聞いたことないです……。
高橋
これ、宗教社会学をやってる人は、99%読んでる、ってくらいすごいやつなんですよ!
谷
へええ! って、もうその「宗教社会学をやってる人」からよくわかってない愚か者ですが、これは、どうして買ったんですか?
高橋
その「マストリードの代名詞」みたいな名著を学生時代に読んでいなかったという罪悪感が、頭にずっとあったんです。
谷
罪悪感……。読まなきゃいけなかったのに、読んでなかったーって思ったんですか?
高橋
そう。それで、たまたま仕事で『フランケンシュタイン』って本を買おうと書店の文庫棚を徘徊していたときに、近くの別の棚を見たら「あ、これ読まなきゃいけなかったあの本だ」って思って。
谷
読まなきゃいけなかった本と、たまたま出会っちゃったんですね。
高橋
はい、目が合っちゃった。ずっと見て見ぬ振りして逃げていたやつにバッタリ再会してしまった感じで。それで、手にとってパラッと見たんですよ。
そしたら「字ちっちゃ!」と思って。
谷
またもや「字」問題!
(中をパラッと見て)
たしかに、ぎゅーっと詰まってて改行も少ないから、読むのたいへんそう。
高橋
そう。でもこれについては「字」が、買う決め手になったんです。
谷
え? どうしてですか? 前に字が多いから積ん読になったっておっしゃってたのに……。
高橋
ほら、45歳くらいになると老眼が始まるそうじゃないですか。そうすると「あと10年もすれば、この本読めなくなっちゃうかも」って思ったんです。だから、買うなら今しかないと思って。
谷
今でしょ、と。
高橋
また林先生出してきましたね。
でも、だから僕がこれを買った理由は、罪悪感と偶然の再会と、字の小ささですね。
谷
へー! 字の小ささが、かえって「買おう」という気持ちに火をつけたんですね。
タイムリミットがあると「早く読まなきゃ」と思う。
高橋
はい。僕たちはふだん本を作るとき、小さすぎる級数(文字の大きさをあらわす単位)って避けたがるじゃないですか? パッと開いたとき、読んだ人が「うっ」と引かないように。
谷
そうですね。年配の方にも読んでほしい本だと、デザイナーさんに「字は大きめに」ってお願いしたりします。
高橋
ですよね。でも今回ばかりは「文字が小さいから」買ったわけで、皮肉なものです。
谷
でもでも「老眼になる前に読まなきゃ」と思って買った本なのに、どうして積ん読になっちゃたんですか?
高橋
……字が小さい。
谷
それ、買った理由!!!
高橋
でも字が小さすぎて読む気がしないし、むずかしそうだし……。
「最初に感じた恐怖のとおりだった」っていうのがまずひとつあります。
谷
買った理由が、読まない理由に直結してるということですか……。
高橋
あと、偶然で買ったから、「今読む必然性」がないんですよ。
「今でしょ」と思ったのに「今じゃなくてもいい」。
谷
今じゃなくてもいい。逆林先生ですね。
高橋
もう林先生はいいです。
谷
たしかに、10年後まではまだだいぶ時間がありますし、優先順位は下がっちゃうかもですね。
ちなみに、この本買ったときに、何か別の本読んでました?
高橋
三国志ものの小説を読んでました。『泣き虫弱虫諸葛孔明』、サイコーですコレ!
谷
高橋さんは三国志がお好きなんですよね。自分が好きなもののほうが優先度が上がってしまうから「読まなきゃ」って思ったものは、後回しになっちゃうってことなのかなあ。
高橋
それです。あと、買ったときに「罪悪感」がちょっと薄れたんですよ。
谷
罪悪感が薄れた! 買ったことで?
高橋
です! 買ったことでけっこう満足しちゃったっていうか。長年背負ってきた罪の意識が軽くなった。書店のレジを通すことは贖罪なんですね。
谷
贖罪……すると、これはこれで役目を果たしたということですね。書店のレジの力は偉大!
実際、この難しそうな本を今回読んでいただいたじゃないですか。
いざ読んでみて、高橋さんが期待されたことと、実際の中身とは合ってましたか?
高橋
そうですね。それなりに想像してたとおりでした。名著だから、いろんなところに引用されていたり解釈が書かれてるので、どこかでそれを事前に読んでいたんですよね、多分。だから、結論としてはあまりそれ以上のものはなかったというか。
谷
そ、そうなんですね。じゃあ、積ん読のままでもよかった……?
高橋
でも今回、ちゃんと読んでみてそれが確かめられたんで、よかったです。結論や結果を知るだけの人生はいやです。富士登山がたいへんと人から聞いているのと、自分の足で登頂するのはやっぱ違いますから。
谷
たしかに……!
読んでみるまでは、ほんとはどんな内容なのかわからないですもんね。
高橋
そうですね!
谷
本日は、貴重な積ん読の数々を拝見させていただき、ほんとうにありがとうございました。
高橋
こちらこそ、いい機会を与えてくださりありがとうございます。
埃っぽい部屋ですいませんでした。
谷
いえいえ。とくに干し柿が印象的でした。
それにしても、CDがたくさん散らばっていますね……。
高橋
読んでない本よりも、まだ聞いてないレコードや開封していないCDの方が多いと思います。積んCD。
谷
積んレコもある!
「父も、壊れた計算機を集めてるんです」と話す、生粋のコレクター家系に育った高橋さん。
でも、積ん読されていた本を見せていただいたら「これ、読んでみたいな」と思った本がたくさんありました。
そしてたずねると「これおもしろそうなんですよ!」と説明してくれる。その目は輝いていました。まだ読んでいないなんて信じられないほどに。ああ、「これから読みたい本」が家にたくさんあるって、なんてうれしいことだろう。
「おもしろそう」な本が、家に待っててくれる人生。
それはとても豊かで尊い人生だな、と、高橋さんの家の干し柿を見て思いました。
【あなたの「積ん読」見せてください】[目次] |
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【あなたの「積ん読」見せてください】vol.1 コレクター気質の音楽好き編集者、高橋和記さんの積ん読 |
【あなたの「積ん読」見せてください】vol.2 なぜ、積ん読は生まれるのか? を分析してみた |
【あなたの「積ん読」見せてください】vol.3 「字」が買う決め手になったけど、字のせいで積ん読 |
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