【あの本のつくりかた、教えて!】谷綾子さん第1回「どうやってつくっているか想像すらできない本」

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ものすごい本に出会ってしまいました。
『休日が楽しみになる昼ごはん』。
読者として読みながら「わー、おいしそう、これつくってみよう♪」なんて思っていたのはつかの間。
編集者として「こ、こ、この本、どうやってつくるの…?」という疑問が
むくむくとわいてきました。

まず、1枚目の写真を見てほしいんです。
この本をつくる手順がひと目でわかる編集者の人がいたら、連絡ください。
高級レストランとかでなんでもおごります。
ええ、強気です。だって、たぶんいないと思うもん。

どうやってつくってるの!? 聞きたい……!と思ったら、
なんとこの本の担当編集者は、校了メンバーの谷綾子さんではないですか。
こんな偶然、あるんですね。(舞の海風に)

谷さんといえば、
56万部のベストセラーとなった『こころのふしぎ なぜ?どうして?』とか、
『一日がしあわせになる朝ごはん』なども作られていて、
「なにあの本! すごすぎる! どうやって作っているの?」と、
編集者界隈でも話題になっていました。

というわけで……
こんな本、どうやってつくるの!?
どんな順番で?
どんな発想法で?
どういうスタッフさんで?

を、ぜんぶ聞いてきました!!!!

池田

こんにちは。
「本日、校了!」メンバーの池田です。
冒頭で書いた、「1枚目の写真」とは、こちらです。

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このページが、というかこのレシピ本がいかにすごいのか、語っていいでしょうか。
まずね、要素がすごく多いんです。
普通のレシピ本って、「料理名」と「材料」と「作り方」と「写真」しかないんです。
ほかにも、あったとして「どんな味かの説明文」とか「所要時間」とか。

でもこのレシピ本には、
「料理名」「材料」「作り方」「所要時間」「コラム」「イラスト」「困ったときの一押し」という、ものすごくたくさんの要素が入っているんですよ。
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ほら!

あのね、本の編集者として、言っちゃいけないであろう本音を言わせていただきます。
要素が多いと、仕事が増えるから、あんまりやりたくないんです。
だって、写真撮ってレシピを載せるだけでもじゅうぶん本になるのに、コラム書いて、イラストも発注して、つくる時間測って……って、単純にたいへんだし、お金もかかるし、ミスも増えるし。
「やらなくってもいっか~」ってなる理由が、一瞬で10個くらい思いつくんですよ、ほんとうのところ。

それなのに!この本は!そんなこと全部無視してる!

「読者のために、これ、あった方がいいよね?」
って、絶対思ってる。
そして、
「こうするほうが、つくってる私が楽しいもん!」
とも、絶対思ってる。
これがまず、わたしがこの本を見てふるえた理由のひとつめです。

あとね、もうひとつは、
「全ページ、ちがうデザインでできている!」ってこと。
思い返してみてほしいんですけど、ふつう、本っていうのは、だいたい全ページ同じデザインなんですよ。
たとえば、小説を読んでたら、全ページ、同じ余白があって、同じ文字数と行数で文章が配置されているでしょ。

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次のページで、いきなり字が大きくなったり、小さくなったりしないでしょ。

ふつうは「基本フォーマット」とよばれる、ほぼ全ページ共通のデザインをつくって、そこに文字を「流し込む」というやり方をするからです。
つまり、デザインを作って、それに当てはめて原稿を作るわけです。

でも、この本は違う。
ひとつひとつ、ページごとに、どうデザインしたら見やすくて、わかりやすくて、おもしろいか、全部考えられている。
この本が128ページですから、ここだけでも、ふつうの本128冊ぶんの手間がかかっているわけです。

要素が多いだけでも手がかかっているのに、デザインでも128冊ぶんの手間が!かかってる!
すごい……すごいよこの本……。

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この本!!

しかもね、
僭越ながら本づくりのプロである私から見ても、
この本をどうやって、どんな順番でつくっているのかがわかんないんです。

写真を撮ってから、イラストを描くの?
このイラストは、誰が考えてるの?
写真を撮る前に、どういうデザインにするか決まってるの?
もっというと、発注はいつしているわけ……?
摩訶不思議です。

ほら。どうやってつくってるか気になってきたでしょ。わかんないでしょ。
ほらみなさん、この先を読むまえに、『休日が楽しみになる昼ごはん』を買ってきてください。
見ながらのほうが、8倍くらいよくわかりますから。
買ってきました?
近くに書店がない人とか、夜読んでるって人は、Amazonでポチってもいいですよ。

買いました?
買った人はご一緒に、谷さんを呼んでみましょう。
「たにさーーーーん!」

じゃじゃじゃじゃ~ん。呼ばれて飛び出たよ。

池田

(ノリがいいな……)
谷さん、きょうは、この本のつくりかたを
全部聞かせてください!
世の中の、売れる本をつくりたい編集者はもちろん、
たのしく本をつくりたいとか、誰も見たことのない本をつくりたいって思う
志の高い編集者たちに、ぜひ伝えたいなって思います。

えっ……役に立つかな。

池田

大丈夫! 誰より私が知りたくて、ほんとうにわくわくしているよ。
もう、PV数は0でもいいから、教えてほしいよ。
ねえねえ、この本は、どのくらいの期間で作ったんですか?

2018年の1月から企画をスタートさせました。

池田

製作期間は、だいたい10か月。
最初から、『休日が楽しみになる昼ごはん』という企画だったんですか?

最初は、『昼ごはん』で一冊にするっていう企画でした。
「休日、家で食べるごはん」と「お弁当」を入れようとしていたんだよね。
だけど、その2つをいっしょにすると、テーマがぶれてきちゃう。
だから、著者の小田真規子先生と話し合って、「いっそのこと休日の昼ごはんに絞っちゃおう」というところからスタートしました。

池田

「平日の昼ごはん」と「休日の昼ごはん」は考え方が違うから、どちらも入れてしまうと、ぶれるっていうこと?

そうそう。
休日に家で作って食べる昼ごはんと、平日に会社に持っていくお弁当だと、全然読者の求めるものが違うんだよね。
当たり前っちゃ当たり前なんだけど。

池田

そうなんだ!
何もかも詰め込むんじゃなくて、「伝えたいことがぶれない」ってことを大事にしているんだね。
そもそも「昼ごはん」っていう企画は、どうやって立てたんですか?

ずっと「休日の昼ごはんって何を食べていいか分からない」って思ってたんです。ぼんやりと。
まさに、この本の冒頭にあるように、パンとか、冷凍ごはんに卵かけただけとか、「あ、冷蔵庫にシュークリームがあった」みたいに、なんとなくそのとき家にあるものを食べたりとか。
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引き出しでみつけた古いそうめんとか……なんだか適当に食べてるなという自覚があったんです。

池田

た、たしかに。
昼ごはんという時間すらとらないで、なんとなくそのへんにあるものをダラダラ食べるだけですませたりしてる……。

そうだよね! それってけっこう「もったいない」って思ったんです。
よく考えたら、休日って年間約120日もあるんだよね。
その120回を「おいしい!」と思ってすごすのと、「適当なもの食べちゃったなあ」って思ってすごすのとでは、積み重ねるとけっこう大きい差がでそうな気がして。

池田

たしかに、たしかに。

それで調べたら「休日の昼ごはん」ってタイトルについた本はなかったから、おもしろそうだなと思ったの。
まあ、休日のお昼って外食する人も多いから、ニッチすぎて誰もやらなかっただけだと思うんだけど。

池田

谷さんはいつも、どういう発想で企画を作っているんですか?
編集者にもいろんなタイプがいるでしょ。
「自分の悩みを解決したい」とか、「もっと世の中がこうなればいいのに」とか、「怒り」が企画の始まりの人もいるよね。

ふりかえると、「自分が気になっていること」から作っていることが多いです。
「ほったらかしにして生きてきたけど、ちゃんと向き合って考えてみたいこと」とか。
そのなかでも「義務感とか、イヤイヤながらやることを、人生から極力減らしたい」っていう気持ちが起点になっているかな。

池田

義務感とか、イヤイヤながらやることを、人生から極力減らしたい。
それはすごく素敵なテーマだなあ。

別に毎日ハイテンションでいられなくてもいいんだけど、「めんどくさい」よりは「楽しい」にこしたことはないよね。
そういう形のない「気分」を、どうやって本の形に落とし込むか? 
ってことをいつも考えてます。

池田

そうなんだ!

牡牛座だからかもしれないけど。

池田

牡牛座…? (何の関係が…?)

牡牛座はね、「感覚的な心地よさ」を貪欲に追求する人々なんだって。石井ゆかりさんの星占いの本に書いてあったよ。

池田

な、なるほど……。
つまり、「つまんない気持ちでごはん食べているのがイヤ」ってことなんだね。

そうそう! 
そして、つまんない気持ちでごはんつくる日も減らしたい。

池田

この本を読んですごいなと思うのは、すごくハードルが低く設定されていること。
「肉と卵のはずかし飯」とか、「納豆ともう一つ丼」とか、よく言われる”これならできる!”っていうメニューよりも、もっと作りやすい。

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ごはんって基本的には「For Me」でいいと思ってます。
もちろん家族がいる人なら、家族も喜ばせたいだろうけど、まずは「自分がおいしい」のが、いちばんすこやかだなって。
だから、自分にとって、作るのがしんどくないものをたくさん載せたいんです。

池田

なるほど~。
そういう考えやコンセプトは、著者の方にはどうやって説明というか、共有してもらうの?

たとえば、わたし、米が大好きなのね。
だけど、休日の昼にお米を食べたいと思ったのに、冷凍ごはんがなかったことがあったの。
でも、すぐ食べたかったのよ。とにかく早急に。
そんな日にはさ、炊きたくもないじゃない?

池田

無理! お米といで炊いて蒸らすの無理。

そうそう。著者の先生には、恥を忍んで、そういうリアルな気持ちをお話しします。
今回は、その話をしたら、先生が「ゆで米おじや」(p75)っていうアイデアを出してくれたの。
米を研ぐというあの苦行もいらないし、20分くらいで完成するから、炊くよりずっとラクで早いんだよね。
小田先生は、料理研究家だからものすごく引き出しも知識もお持ちなんだけど、わたしくらいのレベルのものをたくさん載せたいです、というふうにお願いしました。

池田

小田先生のレシピってさ、いっつも、つい作っちゃうんだよ。
わたし、レシピ本が好きで、たくさん買うんだけど、見るだけで満足して、あんまり作らないことも多いんだよね。
それなのに、小田先生のは、つい作っちゃう。おいしそうだし、すぐできるしさ。

そうそう、すごいよね。
わたしの今の料理のベースはすべて小田先生から来ているよ。
すべてのレシピに理論があるし、わざわざわたしのような者のところまで降りてきてくれる。
神だよね。
料理神。

池田

神が!
そっかー、そうやって、企画のコンセプトを決めていくんだね。
ではいよいよ、企画ができたから、原稿をつくる順番を聞いていきたい!
ここに、本をつくった順番どおりに、ラフや原稿を並べてもらいました。

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(次回に続きます)

この記事を書いた人

池田るり子
編集者
栃木県出身。甘いもの大好き編集者。趣味は走ることと歌うこと。これからは、小説をたくさんつくりたいなと思っています。

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