『終電ごはん』という本をご存じでしょうか。
まるで文芸書のような、黒い装丁に柔らかい文字。
簡単でおいしそう。そんなレシピが載ったこの本を執筆されたのが、梅津有希子さんです。最初はこの『終電ごはん』についてのお話を伺う予定だったのですが、流れは思わぬ方向に。
谷
フリーになられてからも、犬の雑誌を?
梅津
やってましたよ。ただ、もともと犬の本がつくりたかったわけじゃなくて、ライターになりたいっていうのが先だったので、犬の仕事は好きだけど、他のジャンルもやりたいなって思うようになってきて。
谷
他のジャンル。
梅津
はい。いろいろ売り込みにいって、「何でもやらせてもらいたい」っていう話をしました。それで少しずつ、ペット以外に健康や美容、料理などの暮らしまわりの企画や、インタビューをやらせてもらったりとか。そういうのでジャンルを広げていった感じです。
谷
そうなんですね。当時の梅津さんからみたら、まさかレシピ本を出すとは。
梅津
まさかですよ。そもそも、本を出すタイプのライターじゃないと思ってたので。全然著者とか思ってなかったです。
谷
まさか自分が著者になるとは。
梅津
ほんとに。
谷
ちなみに、最初に出した本って、何だったんですか?
梅津
『吾輩は看板猫である』(文藝春秋)ですね。
谷
えっ、「犬」だけじゃなくて「猫」も!
梅津
はい、もともとは『CREA』っていう文藝春秋の雑誌で、犬と猫の特集があったんです。「町の看板猫をたずねて」という企画を私が担当して。それを見た『CREA』の書籍の人達が「これすごい評判よかったから、追加で猫集めて本にできないかな」って、いわれたんです。
谷
猫集めて(笑)
梅津
その特集には5匹しかいなかったので、あと15匹ぐらい集めないと1冊にならないよなと思って、都内の看板猫をいっぱい探しました。猫も大好きなので、探すのは楽しかったんですけど、まあ大変でした(笑)。「猫のいるお店を見たことはありませんか」と警察に聞き込みしたり。でも、探しているうちにだんだん自分の猫センサーが研ぎ澄まされてきて、「この道を曲がったら猫がいそうだ」というのがわかってくる。そうやって初めてつくったのがあの本なんです。
谷
それが、初めての本。
梅津
そう、忘れもしない2011年3月10日ですよ。震災の前日。初めて自分の本が並んでる本屋さんを見にいって。
谷
あの頃だったんですね。
梅津
そうなんです。あの頃、本が売れないといわれて。紙がないとか、印刷所が被災したとか。そんな時期に本なんて売れるわけないじゃんってみんな言ってましたよね。そしたら意外と「猫ちゃんが癒しになりました」っていわれて、思ったより売れたんです。新聞に投書がきたり。
谷
それは……かなりうれしいですね!
梅津
ほんとは「紙あるんですか?」、「インクあるんですか?」って思ってたんですけど、ポンポンと4刷ぐらいまでいって。
谷
すごい!
梅津
その頃に『終電ごはん』のインスタもあげてて、幻冬舎の方からメールがきて。
谷
なんだか、トントン拍子で。
梅津
でも、看板猫の本を一冊出したっていう実績があったから企画が通ったのはあるんですよね。これで何も出してない人だったら「よくわかんない人がネットで何か言ってる企画」が通るわけないと思うんです。
谷
そっか、たしかに一つの指標にはなるのかも。
梅津
だから無駄なものはないというか。本1冊の実績があったのは、大事なことだったんだなーと今になって思います。
第6回に続く…
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