【ヒットメーカーに会ってみた!】加藤晴之さん 第4回 僕は、「どうしよう。こんなのみつかっちゃったけど」っていうほうです

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第10回 本屋大賞にも選ばれ、2016年には岡田准一さん主演で映画化もされた小説『海賊とよばれた男』。ハードカバー、文庫あわせ420万部という大ヒット作を手掛けたのが、編集者の加藤晴之さんです。

インタビュー第4回目の今回は、再び書籍編集部に戻った加藤さんがどんな本を作られたのか。そしてあの『海賊とよばれた男』プロジェクトが始まるきっかけとなった、百田尚樹さんとの出会いについて教えていただきました。

それで、『海賊とよばれた男』にはいつたどりつくんですか?

加藤

えーっと……まだ先です(笑)そのころ、学芸図書出版部に部長として戻ったのに、それより自分でもものがつくりたいんです。部長って、本来は、本をつくらないで、マネージャーに徹するんですけど、まだまだ書籍編集者として、現場掛け持ちで仕事をしたかった。

管理職だったのに?

加藤

当時、講談社のセクションもいろいろ揺れ動くときでね。『月刊現代』が廃刊したところ、ジャーナリストやノンフィクション作家の人たちから批判されて、あらたに『g2』という雑誌を立ち上げ、雑誌単独では赤字なので、その雑誌を作ることを兼務する人も中にいたりして、複雑な組織だったんです。そこに戻って、自分としてはマネジメントをやりながら、自分でも本をつくろうと。書籍編集者としては途半ば、と思ってたんですね。最初の書籍時代の時に、内田樹さんの『下流志向』って本を作ったこともあって、また内田さんにご本をお願いしたり。

池田

『下流志向』も担当されてたんですね。すごい。

加藤

僕が話を進めてて、最終的に本にまとめたのは、引き継いだほうの編集者ですけど。でも学芸図書全体的には、売り上げが上がらなかったまま部長を降板。そんなときに瀧本哲史さんの『僕は君たちに武器を配りたい』ってのをつくりはじめて。西川善文さんの『ザ・ラストバンカー』っていう本も当時、編集部員と2人でつくった本でした。

『僕は君たちに武器を配りたい』ってクールなタイトルですよね。

加藤

僕は君たちに武器を配りたい(僕武器)は2012年のビジネス書大賞をいただいたの。あれは、『さおだけ屋はなぜ潰れないか』など光文社新書のヒットメーカーだった柿内芳文さんが、光文社を辞めて星海社に飛び込んで、若者たちがリベラルアーツ(一般教養)を現代を生き抜くための武器として学ぶことを標榜する星海社新書を立ち上げて。その星海社新書の第一弾が瀧本哲史さんの『武器としての決断思考(武器決)という本だったんですけど……

池田

同時発売でしたよね。

加藤

そう、820円の新書と同時発売で、『僕は君たちに武器を配りたい』(僕武器)は定価1,800円だったから、販売から猛反対されますよね。「みんな新書を買うに決まってんじゃん」って。でも、全然切り口が違う。同じ作家の作品でも、各論(武器決)と総論(僕武器)、廉価版とハイエンド商品みたいな感じで、住み分けてたんです。結果、お互いがお互いの宣伝媒体になり話題が話題を呼んで、武器決は、30万部、僕武器は10万部を超えて売れました。

池田

なぜ、売れたとお考えですか?

加藤

『武器』とか『武器を配る』って流行語になったけど、新しい働き方の提案というか。リベラルアーツは、たしかにすぐに役に立たないけどじつは大切なもので、ある意味、ひとつ前の勝間和代さんたちがもてはやされた、すぐに役立つ「資格ブーム」「勉強ブーム」のアンチテーゼだった。すぐに役立つ知識はじつはすぐにレッドオーシャンになってコモディティ化する仕事にしか結びつかない。弁護士や医師や公認会計士のような士業でもこれからは使い捨てられてしまう時代だと喝破したところがじつに真っ当で新鮮だった。『頭を磨く』とかにしても、お勉強ブームだったころの「お勉強」は意味ないよと。自分のつくったものをアッサリ否定しますけど。

それって、地頭力みたいなこと…ですか?

加藤

そういうことかな。同じ編集者でも、谷さん、池田さん、中野さんは、コモディティ編集者じゃないでしょ。それぞれ、特徴があって、独自色の面白い本をつくる。どこにでもある、「〇×したら英語は△□」とか「●▽したらみるみる痩せる」とかそういう本をつくらない。『読むだけで思わず二度見される美人になれる』とか『一日がしあわせになる朝ごはん』とか『コーヒーが冷めないうちに』とか、キャラ立ってる本をつくる。タイトルからしてかなりいっちゃってる、ヘンじゃないですか、あ、褒めてるんです。『一日がしあわせになる朝ごはん』って、『毎朝、爽快に仕事に行ける朝ごはん』くらいがフツーでしょ。

逆に、その書名は思い浮かばなかったです……。

中野

柿内さんと、同時進行でつくったのは、たまたまなんですか?

加藤

いえ、戦略的に計画を立てて。というと開発秘話のストーリーとして、「おお、すごい話」になるんだけど、じつは、おっしゃるとおり、「たまたま」です(笑)! 光文社在籍のときに柿内さんは瀧本さんとの出会いがあり、僕は僕で、別のアプローチで『僕武器』をつくってたのが、柿内さんが星海社新書を立ち上げることになって。でも、開発途上で、たしかに、「チーム武器」ができて、お互いのコンテンツにも影響し合い、宣伝や販売展開も連動した。面白いのは、『武器決』は新書づくりの天才の柿内さんらしい本の作り方で、『僕武器』は僕が雑誌のときの経験が生きてるかわからないんだけど、僕はかなり週刊誌っぽいつくり方をしてるんです。

週刊誌っぽいつくり方?

加藤

当たってるかどうかわからないけど、僕は、編集者の本の作り方って大きく2つのタイプに分かれていて、1つは取材する前に『これはこんな話にしよう』と思ってパーツを集めて本または記事にするタイプ。もう1つは、とにかくおもしろそうなことがあるから、突っ込んで何か探してみようっ、面白いものを集めてそれを繋げて組み立てるとさらに面白いなんらかの形(本や記事)になるぞというタイプ。僕は後者ですね。

おもしろそうなことがあったら突っ込んでみるタイプ。

加藤

そう、宝が出てきた! これどうする? っていうタイプです。この宝をイヤリングにするのか、ブレスレットにするのか、ブローチにするのか、どれが1番輝くか考える。これ何に使うの? 車を動かす燃料になるかもしれない。でもそうじゃなくて灯りとして使った方がいいかも、とか。とにかくすごいおもしろいものを探してきて、これをどう料理して、何にするのか考える。僕はとにかく何か探してきて「どうしよう。こんなのみつかっちゃったけど」っていうほうです。

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中野

みつかっちゃった。

加藤

でも、「これはこんな本にしよう」「こんな本があればぜったい当たる」と、最終的な形まで完全に見切って創作に入る黒川(精一)さんを見てると、本当すごいなと思いますよね。

中野

いろいろなジャンルができるところだったんですね。小説をつくることもできればビジネス書もつくれる。

加藤

……というか、もう、会社も呆れて、半「放牧」状態だったんだよね、たぶん。

中野

自由に何でもいいからやってくださいって感じですね。それが結果として功を奏したということですか?

加藤

これも計画性がなくて。

それで、『海賊とよばれた男』にはいつ……。

加藤

あ、そうでした(笑)えっと、まず百田尚樹さんとどうして出会ったか、ですね。僕が担当していたある本を書いてもらった筆者がいて、百田さんがその筆者の本を『永遠の0』を書くときの参考にされてたって聞いたんですよね。なので、百田さんに帯の言葉をもらったんです。それでお礼に大阪にいって、会ったときに同じ学年だって話になって。僕は昭和30年、百田さんは昭和31年の早生まれでしょ。しかも大阪出身だし。

へええ、同級生って一気に親近感わきますね。

加藤

そう。昔、大阪の朝日放送でやってた『ラブアタック!』って番組があったんです。『ねるとん紅鯨団』の視聴者参加お見合い番組の元祖ですよね。『パンチでデート』、『プロポーズ大作戦』、『ラブアタック!』ってあったの、在阪キー局で。それで、名古屋のCBCで似たような番組があって。僕、名古屋の番組に出たんですよ。『ラブラブダッシュ』って番組名だったかなあ。

中野

お見合い番組に! 学生時代ですか? 何がきっかけで?

加藤

入社して1年目でした。きっかけは、新宿で飲んでたら、たまたま飲んでる横にテレビ局のプロデューサーがいて。「講談社の人ですか。ちょっと番組に出てください」って。

中野

ちなみに奥様はそこで出会われた方?

加藤

違います(笑)。話を戻すと『ラブアタック!』っていう番組の常連だったの、百田さんって。

出る側でですか?

加藤

そう、出る側で。『ラブアタック!』ってのは、毎回「かぐや姫」役として美人の女子大生でマドンナみたいな人が登場して、それを3人の学生が出てきて……

中野

「付き合ってください」と、プレゼンをする。

加藤

プレゼンして。かぐや姫に求婚した男性がいろいろゲームに挑戦して頑張るわけ。頑張って、歌を歌ったり、水に落ちたり、パン食い競争とか、いろんなバカなことを学生にやらせるわけ。

中野

あっ、検索したら百田さんの画像が出てきた。

池田

今と全然違う……(気になる方は各自で検索を)。

加藤

「同志社の百田」「京産大のナントカ」、みたいに、ただ目立ちたいという目的で出演する、ノリのいい関西人、ようは「アホ」がたくさんいたんです。そういう名物男(みじめアタッカー)がいて常連だった。そのうち、朝日放送のその番組を担当していたすごい優秀なプロデューサーに「百田くん、なんだったらウチでアルバイトしなさいよ」って誘われて、そこから構成作家になったわけ。

そこからあの名番組、探偵ナイトスクープも! お見合い番組に出てたっていう共通点もあって気が合ったんですね。

加藤

それで、お会いしたときにいろいろ話をしてたら百田さんが「加藤さん、こういう話を知ってる?」って、『海賊とよばれた男』のクライマックスシーンとなる、「日章丸事件」の話をしてくれた。
戦後、連合軍の占領下にあった日本がようやく独立を回復したばかりの頃、当時世界最大の石油埋蔵量を誇るイランが、イギリスに支配されていた油田の国有化を宣言したところ、イギリスは激怒してイランを経済封鎖する。イランのアバダン港から石油を積み出したイタリアのタンカーがイギリス海軍の軍艦に拿捕され緊迫するペルシャ湾へ、唯一民族資本を貫いていた出光石油のタンカー日章丸が、イギリス海軍の海上封鎖を突破して石油を積んで日本に帰ってくるというウソみたいな冒険談。

2014.2.20-28イラン訪問 088

百田さんとアバダン港で。

池田

へえ! それって有名な話だったんですか?

加藤

僕は全然知らなかったわけ。そのとき百田さんは「コイツほんまはアホやな、東大出てるけど」って思ってたらしいんだけど(笑)。でもすごく面白い話なので「それ、調べてみますわ」っていって東京に帰って調べたんです。そうしたら、実際にものすごくドラマチックでドキドキするおもしろい話なんですよね。いろいろ調べて、これはネタになるなと思って、百田さんに、いろいろ調べたものを段ボールにいっぱい詰めて送って。

段ボールいっぱい!

加藤

そしたら彼は「加藤さん、すごいなこれ。ええもんもらった。宝の山やね、これは」っていって原稿を書きだすんです。でも、すでに百田さんは講談社で『永遠の0』の文庫も出してたし、『風の中のマリア』ってスズメバチが主人公の話も出していて、『影法師』っていう時代劇も書き下ろしてた。講談社の文芸の部署に、ちゃんと担当者がいるわけです。だから、スタンスとしては「僕は百田さんと仕事したいけど、これでええもん書いてください」って感じだったんだけど、百田さんが僕を(担当編集者に)指名してくれて。異例の文芸の作家とノンフィクション編集者のコンビという、全然違うところで組むことになったんです。これに、百田さんと僕をにつないでくれた文芸セクションの編集者二人もこのプロジェクトにくわわって、「チーム海賊」が誕生したんです。

中野

文芸の部署じゃないのに。日章丸事件がネタになるって思ったのは、どの部分ですか。

加藤

最初も最初、日章丸事件の話をしてくれた百田さんの説明が面白いんです。やっぱり物語を立てるのがうまいですね。同じ史実を語らせても話の仕方が下手な人だと全然つまらないじゃない。物語の発想や、人に語るときのドラマのストーリー性。これは重要なことなんです。古今東西、人間が文字を開発する前は口承じゃないですか。口承するってことは、今以上にビジュアル的じゃないと人に伝えられないと思うんです。その次に文字ができて文字化されても、原理原則は変わらない。ギリシャ・ローマ神話だって中東の世界の千夜一夜物語だっておもしろいですよね。よくよく考えれば荒唐無稽でめちゃくちゃだけど。千夜一夜なんて、おもしろい話しないと殺されちゃうわけでしょ、あれ。

たしかにそうだ。命かかってますもんね。

この記事を書いた人

谷綾子
編集者
滋賀県出身。「椅子なきところに椅子を置く」をテーマに、料理、児童書、文芸など、いろいろなジャンルを手がけています。たのしくて情緒のある本と、お笑いが好き。アルパカも好き。

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