【ヒットメーカーに会ってみた!】 黒川精一さん第5回「カバーをつくるときの、6つのチェックポイント」

Category: あう 0120ho_0194

連載「ヒットメーカーに会ってみた!」
記念すべき第1回目のゲストは、編集者の黒川精一さん。
2013年に『医者に殺されない47の心得』
2014年に『長生きしたけりゃふくらはぎをもみなさい』で
2年連続のミリオンセラーを出され、2016年にも
『どんなに体がかたい人でもベターッと開脚できるようになるすごい方法』が
ミリオンセラーとなっている、生きる伝説の編集者、黒川精一さんにお話を聞きに行きました。

——ここからは、制作秘話——
いちばんはじめに、このインタビューを申し込んだときにいただいたお返事は、
「やるなら本気のものを。長時間、徹底的にやってほしい」というひと言でした。

ふだんはこういうインタビューはほとんど受けないという黒川さんの「決定版」のインタビューにするべく、ICレコーダーだけを握りしめて、単身、丸腰で乗り込みました。

数時間におよぶインタビューの結果、「これ、みんなに知らせずに、ひとりじめしたい……」と、本気で思うくらいの記事ができました!
黒川さんが公の場ではじめて明かす話がいっぱい。

すごすぎて、8回のスペシャル連載です。
どうぞご覧ください。

第1回「一生懸命につくった本が売れない」っていう事態を減らす方法を教えてください!
第2回「市場にない、売れる本」をつくるためにはどうすればいいか?
第3回「自分がおもしろいと思っているものをつくると売れるのか問題」
第4回「本づくりをはじめる前に、かならず満たしておくべきこと」
第5回「カバーをつくるときの、6つのチェックポイント」
第6回「原稿づくりの方法」って?
第7回「編集ができるようになるトレーニング」ってありますか?
第8回「本を売り伸ばすための、PR」について教えてください!

第5回
カバーをつくるときの、6つのチェックポイント

池田

カバーをつくるときに、黒川さんがかならず入れている要素とか、基準みたいなものはあるんですか?

黒川

自分なりの「決まり」みたいなものはありますよ。

池田

えっ! そうなんですか?

黒川

うん。いつだったか忘れちゃったけれど、いろんな本を研究しながら、自分なりに決めたんですよ。
ぼくが大切にしている要素は、
「目的、手段、社会的シグナル、評判、距離、アイコン」
この6つです。
カバーをデザイナーに依頼する前に、まずは、これらをそれぞれ書き出してみます。
カバーとオビにすべて入れこむこともあるし、4つだけ入れる、みたいに取捨選択する場合もあります。

池田

目的、手段、社会的シグナル、評判、距離、アイコン。
ひとつひとつ、うかがってもいいですか?

黒川

はい。ひとつめの「目的」は、「悩み」。
これは、「願い」って言いかえてもいいんです。
「どうなれるか」「どうなるとうれしいか」と言ってもいい。
この本は体のかたい人が開脚できるようになるとか、お金が貯まるとか、そういう「目的」をわかりやすく伝えるようにしています。
いわば読者との「約束」のようなものです。

池田

これは、タイトルにするっていうことですか?

黒川

タイトルに入れ込むことが多いです。
だからぼくのつけるタイトルは長いのが多いんですよ(笑)。

池田

『どんなに体がかたい人でもベターッと開脚できるすごい方法』とか、めっちゃ長いですもんね(笑)。

黒川

そうなんですよ。ただ、長くなるときは、どこか一部分だけをすごく強調するようなデザインにします。
で、だいたいの場合、ここは「目的」です。

池田

あ! ほんとだ! 「ベターッと開脚」!

黒川

うん、そうです。
こうすると目的部分がばちんと見えるようになるから、読者が「自分ごと」だと思ってくれるんです。

池田

「自分ごとだと思ってもらう」ということを、大事にされてるんですね?

黒川

そうです、とくに実用書とかビジネス書って、「自分ごと」じゃないと、買う必要がないでしょ。
本っていうのは生活必需品ではないから、「ぼくの今日、ぼくの明日にどう関係するのか?」ってことが購買のカギをにぎることになると思うんです。
いまのお客さんは、自分と関係がないものは、なかなか買ってくれないですから。

池田

黒川さんのおっしゃる「自分ごと」っていうのはつまり、「自分に今日足りないものを満たしてくれる、うめてくれる」っていうことなんですね。

黒川

うん、それをすごく大切にしているかな。
だから表現も具体的にしていく必要があります。
たとえば、「腰痛が治る」と言われるより、「いつもじんわり重い腰痛がウソのように消える」と言われたほうが、「あ、俺のことだ」と思うでしょ。
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池田

たしかに!

黒川

「これは自分のための本だ」と思ってもらうためには、悩みについて一歩踏み込んだほうがいいと思うんです。

池田

ということは、たとえば開脚の本だったとしても、『開脚の技術』みたいなタイトルをつけてしまうと、「自分ごと」感は薄れるっていうことですよね?

黒川

うん、そうですそうです。

池田

黒川さんのミリオンセラーで言うと『長生きしたけりゃふくらはぎをもみなさい』がありますが、これを「自分ごとでない」タイトルにするとどうなるんですか?

黒川

うーん……『専門医が教える ふくらはぎ健康法』とかかなあ。
こうすると「目的」がどこにもなくて、「手段」だけになるでしょ。
「ふくらはぎ健康法」っていうのは手段だけど、そこに「長生きしたい」っていう言葉を入れることで、「ああ、たしかにそうしたいよね」という「目的」であり「自分ごと」になる。
「うれしい」になるんです。

池田

そうかあ、「ベターッと開脚」も「うれしい」ですもんね。
いま「手段」っていう言葉がでました。
大事な要素の2番目ですね。

黒川

「手段」もとても大切にしています。
「目的」をどんな「手段」でかなえるか? っていうことです。
「解決法」とか「ノウハウ」と言ってもいい。多くの本でやってしまうのは、この「手段」をすごくつまらなくしてしまうことです。
この「手段」は、ぱっと見ただけで「やってみたい!」と思ってもらえるかどうかがポイントです。
これはカバー以前に企画そのものの話でもあるけどね。

池田

「手段」については、カバーでどれくらい具体的にわかるようにするんですか?

黒川

できるだけ具体的に書いたほうがいいと思うの。
「加熱」ではなく「長時間加熱」、「プログラム」ではなく「4週間プログラム」、「プレゼン」ではなく「90秒プレゼン」、こういう具体性が必要だと思います。
いっぽうで、あえて「手段は伏せておく」ということもよくやりますよ。
方法は中を見てのお楽しみ、という感じです。

池田

なるほど。3つめは、社会的シグナル。

黒川

ちょっと難しい言葉ですよね。
これは「所属意識」とか「アイデンティティ」みたいなもので、たとえば、アップルの製品ばかりを使う人っているでしょ?
そういう人の中には、アップルのやってきた革新性とか、他社を真似しない独自性とか、そういう姿勢が好きで、買っている人がたくさんいる。
つまり、そういう会社の製品を選ぶ自分でいたい、っていう気持ちなんだと思うの。
「革新的な自分でありたい」「クールでいたい」みたいな。
こういう人はあまりに大衆的なデザインの本は買ってくれない。
たとえば、教育書を例にとってみると、子供に「一流の教育を受けさせたい親」か、「自主性を尊重したい親」かによっておそらく、手にとりたいものが違うよね。
だから、そのどちらの人に読んでほしいのかによって、デザイン、本の雰囲気を変えないといけないと思うんです。
アカデミックな感じにするのか、親しみやすい感じにするのか。

池田

これは、デザインでだけ表現するものですか?
それとも、文章で入れる場合もあるんですか?

黒川

デザインだけじゃなく、キャッチコピーでも伝えられますよ。
とにかく、お客さんがその本を見たときに「自分はこの世界に行きたい」「これらの仲間入りをしたい」と思ってもらえるかどうかを気にするようにしています。

池田

たしかに、黒川さんにカバーの相談に行くと、「どんなアイデンティティの読者に読んでほしいの?」というようなことを聞かれますね……。
4つめは「評判」ですね?

黒川

これは「全米ベストセラー!」とか、「読んだ人の9割が泣いた」とか「第1位!」とか、推薦文とかレビューなんかもそうです。

池田

「10万部突破!」みたいなものもそうですか?

黒川

うん、そうそう。
それをきちんと示すことによって、手にとることを後押ししていく。
買っても損をしないし、ステイタスも傷つかないということをわかりやすく伝えるのが、この「評判」です。「安心感」と言ってもいいかな。
もちろん嘘をついたり、無駄にあおるようなことはしないし、本当に役に立つものをつくるっていうのが大前提ですけどね。

池田

5番目は「距離」。

黒川

これは「社会的シグナル」に少し似ているんだけど、たとえば「この本って、ちょっと自分には敷居が高いな」と思うことってあるでしょ?
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池田

ああ、あります。
むずかしい専門書とか、私は英語ができないので「TOEIC900点」とかもそう思います。

黒川

「そこまですごいことはできないよ」とか「もっとぱぱっと教えてほしい」と思うようなものってあるでしょ。
それとは反対に、「これなら手が届きそう」とか「ちょっと背伸びすればできそう」と思うような距離の本もあるでしょ。

池田

はい、はい。あります。
……あの、これは、カバーをつくるときに考えても間に合うことですか? それとも、企画の問題ですか?

黒川

もちろん企画の問題もあるんだけど、帯につかうコピーやデザインのトーンで表現できることも多いです。
この本の内容が、どのくらい手につかめるものなのかを、きちんと決めて、提示しておくことが大事。

池田

それは、低ければ低いほどいいとか、高ければ高いほどいいっていうことではなく、自分できちんとわかっておくことが大事だ、ということですか?

黒川

そう。どっちがいいってわけじゃないと思いますよ。
自分の狙いどころをしっかり決める、っていうことです。

池田

でも、たとえば100万部を出したいと思ったら、できるだけ手に届きやすいものにしたほうがいいんですか?

黒川

お客さんが「すこし目線を上げて、手を伸ばして取ろうとする」っていうくらいがいいんじゃないかな、と思います。
挑戦欲っていうのは、誰の心にもあるものなんだと思うんですよ。
でも、ハードルが高すぎると、それこそ自分ごとではなくなってしまうので、ほどよい高さで、「手を伸ばせば届くかも……」くらいの距離に設定することが必要な気はしています。

池田

出た! またよくわからないことが!

黒川

えっ?

池田

「少し目線をあげて、手を伸ばしてとろうとするくらい」って……いったいどのくらいなのか分かりません……。

黒川

そ、そうか。そうだよね。
『開脚』の本のときは、「何を、何回、どのくらいの期間やるか」を著者さんとじっくり話し合いました。
どのくらいなら、やる気になれるか。「それはムリだ」と思われないか。
話し合いの結果、1日3種類のストレッチを、5分以内で、4週間ならやる、という結論になりました。著者さんも、これなら実践できるし、効果も十分期待できるとおっしゃったので、そうしました。

池田

それ以上だと、やってくれないってことですか?

黒川

うん。そう思います。
もちろんね、開脚を早くできるようになるためには、1日1時間、じっくりストレッチをやった方がいいに決まっている。
でも、それは「正しい」かもしれないけど「うれしい」ではないでしょ?

池田

たしかに!
そんなことができたら、そもそも「体がかたい」って悩んでいないですよね。

黒川

そうそう。でも、よくやりがちなのは「先生が1時間やれといっているから、1時間です」という本づくりをしちゃうんだよね。
そこで考えるのは……

池田

(食い気味に)「うれしい」ですね!

黒川

そう、そう(笑)
あのね、多くの人は「めんどくさい」んだと思う。
目的は達成したいけど、めんどくさいことはしたくない。
それを忘れないようにするといいと思うんだよ。

池田

「めんどくさい」かあ……。ふだんはめちゃくちゃめんどくさがりなんですが、
本をつくるとき、読者の方に対してはスパルタになって「このくらいやってください!」と押しつけてしまってます……猛省。
えーっと、最後は「アイコン」ですね。

黒川

これは、カバーをひとめ見ただけで記憶に残るような「シンボル」のことです。
たとえば、表紙にある男の子が印象的だとか、不思議なかたちの椅子のイラストだとか、そういう印象的なものが頭に残るかどうか。
『ベターッと開脚』でいえば、カバーに使っている、Eiko先生の開脚の写真。
かなり下から、特殊な角度で撮ってもらっているんだけど、あの1枚の写真だけで、印象づけられていると思うんです。それが「アイコン」です。
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池田

それは「あの赤い本ね」とか「あの外国人の子供の本ね」みたいな、記憶のなかで本と結びつくビジュアル的な何か、ってことですか?

黒川

そう、そう。
文章とかタイトルは覚えていなくても、「女の人がこういうポーズしている本ね」とか、本を探すときの旗印になるようなもののこと。
このアイコンは、似たような本が他社から出てきたときに、そちらを陳腐化するっていう効力もあります。
みんなの記憶に残っているものと違うものが出てきたら、そちらは偽物のように見えるでしょ。
「先人こそが王道だ」ということを示すためにもアイコンはとても大事です。

池田

それは、意識してつくっておくんですね?

黒川

うん、つくっておく。
べつに写真でなくてもかまわないの。
色でもいいし、文字のレイアウトでもいいんだけど、「ああ、あの本ね」とすぐにわかってもらえるように気をくばっています。

目的、手段、社会的シグナル、評判、距離、アイコンのこの6つはいつもチェックポイントとして持っていて、カバーをつくるときの指標にしています。
かならずしも6つ全部いれる必要はなくて、どれかを「外す」こともあります。
でも、「入れるの忘れてた」ってことはないように、意識的にいつもチェックしているの。
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黒川さんの新刊を6つのメソッドで分けてみました。ほんとに入ってる!

池田

うわー……ものすごく明確なメソッドですね。
こんどから、デザイナーさんのところに依頼に行く前にかならずチェックするようにします!
でも、この6つのポイントって、そのまま、企画の時に考えておくべきことでもありますよね?

黒川

そうです。だから、ぼくは、企画のときにカバーラフを描くんですよ。

池田

あーーーーーー! そうなんですね!!!!!

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この記事を書いた人

池田るり子
編集者
栃木県出身。甘いもの大好き編集者。趣味は走ることと歌うこと。これからは、小説をたくさんつくりたいなと思っています。

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