【ヒットメーカーに会ってみた!】黒川精一さん第2回「市場にない、売れる本」をつくるためにはどうすればいいか?

Category: あう 0120ho_0050

連載「ヒットメーカーに会ってみた!」
記念すべき第1回目のゲストは、編集者の黒川精一さん。
2013年に『医者に殺されない47の心得』、2014年に『長生きしたけりゃふくらはぎをもみなさい』で2年連続のミリオンセラーを出され、2016年にも『どんなに体がかたい人でもベターッと開脚できるようになるすごい方法』がミリオンセラーとなっている、生きる伝説の編集者、黒川精一さんにお話を聞きに行きました。

——ここからは、制作秘話——
いちばんはじめに、このインタビューを申し込んだときにいただいたお返事は、「やるなら本気のものを。長時間、徹底的にやってほしい」というひと言でした。
ふだんはこういうインタビューはほとんど受けないという黒川さんの「決定版」のインタビューにするべく、ICレコーダーだけを握りしめて、単身、丸腰で乗り込みました。
数時間におよぶインタビューの結果、「これ、みんなに知らせずに、ひとりじめしたい……」と、本気で思うくらいの記事ができました!

黒川さんが公の場ではじめて明かす話がいっぱい。
すごすぎて、全8回のスペシャルインタビューです。
どうぞご覧ください。

第1回「一生懸命につくった本が売れない」 っていう事態を減らす方法を教えてください!
第2回「市場にない、売れる本」をつくるためにはどうすればいいか?
第3回「自分がおもしろいと思っているものをつくると売れるのか問題」
第4回「本づくりをはじめる前に、かならず満たしておくべきこと」
第5回「カバーをつくるときの、6つのチェックポイント」
第6回「原稿づくりの方法」って?
第7回「編集ができるようになるトレーニング」ってありますか?
第8回「本を売り伸ばすための、PR」について教えてください!

第2回
「市場にない、売れる本」をつくるためにはどうすればいいか?

黒川

「市場にない本」を企画するときに大事なのは、今から自分のつくるものが、「ライバル本に勝つための本」なのか、「ライバルがいない独自市場をつくる本」なのかの判断をまちがわないこと。
つくっている本人は「新しいこと」のつもりでも、じつは似たものが過去に何冊も出てるっていうことが多いんです。

池田

それ、すごく悩んでいるんです。
私は、その存在を知らなくて、すごく新しく思えるけれど、じつは過去に出ていて、しかも売れてないってことが……よくあって……(どんより)
なぜ、気づかないんでしょうか。
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本ってたくさんあるんです……

黒川

気づくようになる方法がありますよ。
過去に売れたベストセラーを、10年分さかのぼるの。
たとえば、「お金」の本をつくろうと思ったら、パブライン(紀伊國屋書店の売上データ)の「社会」のジャンルで、たとえば2015年の3月、6月、9月、12月と見ていく。

池田

毎月分、見るんですか?

黒川

毎月分見るのは大変だから4か月分くらいでじゅうぶんです。
そうすれば、2015年1年間に売れた「お金」の本はわかります。
これを10年分さかのぼって、やる。
そうして「お金本の過去のベストセラーリスト」をつくっておくの。

池田

え! それを全ジャンルやってるんですか。
たとえば、年間ベストセラーみたいなものも蓄積しているんですか?

黒川

やってます。ネットで調べればすぐに出てくるんですよ。
「今日はリストつくる!」と決めれば1日あればできると思いますよ。

池田

出てくるのは知ってましたけど、いままで、調べてまとめたことはなかったです……

黒川

こんなふうに過去をさかのぼってみると、自分が企画したものと似たようなタイトルがあるかもしれない。
今から自分が「新しいこと」をやるつもりでも、全然新しくないってことが往々にしてあるので、まずその把握をしなきゃいけないです。

池田

その時に私がよくまちがうのが、たとえば「サンドイッチ」の企画を立てたとして、「サンドイッチの本はあるけど、10段重ねのサンドイッチの本はない」と思って、「これは他にない!」って盛り上がっちゃうパターンなんです。

黒川

うんうん、わかります。
むかし、部下から上がってきた企画で「2分間クッキング」っていうのがあったの。「3分はあるんで、2分にしました!」って。
いやいや、そういうことじゃないんだよ、と(笑)。

池田

あはは! 1分へらしたんですね!
でもね、その方の気持ちはすごくわかります。
なんとかして差別化して新しい本をつくれないかなあ、って思うんですけど……でも、“ちょっとした違い”はお客さんには伝わらないですもんね。
あのー、部下からそういう“ちょい差別化”みたいな企画が出てきたら、黒川さんはどうするんですか?

黒川

もしかして、サンドイッチ企画やりたいから、さぐってる?(笑)

池田

えーと、ちょっとだけそれもあります(笑)

黒川

「サンドイッチ」っていうジャンルは、本にして売れるかというと、厳しいだろうな、とは思うの。だから“ちょい差別化”では残念ながら出版はできない。
でも、どうしても!っていうならその熱意を見込んで、どうにか新鮮な企画にできないかを、もう一度考えてもらうかなあ。

池田

それ! それなんですよ。難しいのは。

黒川

ん?

池田

「新鮮な企画」っていうやつです。上司に「もうちょい、なんとかならない?」とか「もっと新しい感じにして」みたいに感覚的に返されても、部下はわからないんです!

黒川

あ、怒り出した(笑)

池田

だって、わからないですもん。
いや、怒ってはないんですよ(笑)

黒川

だよね。上司の感覚的なダメ出しって、わかりにくいもんなあ。
じゃあ、僕なりに説明させていただきますね。

池田

はい、お願いします(笑)

黒川

魅力的な企画にしていく方法は、大きく分けると2つあるの。
商品を変えるか、お客さんを変えるか、です。
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池田

どういうことですか?

黒川

さっきのサンドイッチの企画だとね、サンドイッチが何段か、とかじゃ新鮮にはなりようがない気がするの。
だから、もっと意外なものと「組み合わせる」。
青空サンドイッチ、寝る前サンドイッチ、おせちサンドイッチ、暴力サンドイッチ、長寿サンドイッチ、真夜中のサンドイッチ、トヨタのサンドイッチ、サンドイッチ・マネジメント……
えーと、ほかにもきっといろいろ……

池田

なんで、そんなにポンポン出てくるんですか!

黒川

いや、適当に言ってるだけだよ(笑)
でも、そういう思いつきとか冗談とかでいいから、とにかく自由に、何か意外なものと組み合わせていくんです。
100個くらい考えれば、1個や2個は「お! それいいかも!」ってことが出てきますよ。
こうすると、市場にない、意外性のある商品になるんじゃないかな。

池田

それ、すごく楽しいですね!
意外なものと組み合わせる……「京の都サンドイッチ」とかどうですかね?

黒川

おお! なんだか格式高い! 箱を金箔にしようぜ(笑)

池田

いいですね!
京都の老舗料亭の料理人さんに著者になってもらって!

黒川

ね。いろいろ思いつくでしょ。
そうやってできたものは、「今までにはない」サンドイッチの本になるはずなんです。

池田

すごくわかりました。なんだか楽しい!
今のは「商品を変える」。
じゃあ、もうひとつの「お客さんを変える」はどういうことですか?

黒川

ぼくは“転校生”っていう言い方をしているんだけど、今この学校にいることが、この子にとって幸せかどうかを考えるんです。
もしかしたら、別の学校に行ったほうが幸せになるかもしれない。転校生ってけっこう人気者になれるから。

池田

す、す、すみません、せっかくたとえていただいているにもかかわらず、ちょっとまだ理解ができないんですが…

黒川

あ、すみません。
つまり、“別のくくりにしてあげたほうが、人気が出るんじゃないか?”っていうことなんです。
たとえば、サンドイッチは「時間がないとき」に食べることが多いから、時間の使い方に関心があるビジネスマン向けに本をつくったら、うけるかもしれない。
そもそもサンドイッチって、イギリスの伯爵だかなんだかが、カードゲームやってるときに「おれ、片手で食べるものがほしい」ってなって考えられた食べものでしょ。

池田

あ、その人が「サンドイッチ伯爵」って名前なんですよね!

黒川

そうなんだ(笑)
だから、そのルーツにもどって『多忙な一流ビジネスパーソンのための 片手で食べられる食べもの』なんていう企画もありかもしれない。
それから、サンドイッチって簡単につくれそうなイメージがあるから、自分で食事をつくる気力がなくなってしまった中高年に向けて、「健康」をテーマにした企画もありかもしれない。

ふつうにサンドイッチの本をつくると、書店では料理書コーナーに置かれるけど、ビジネス書コーナーや健康書コーナーに行くようにつくって、いままでのサンドイッチ本とはちがうお客さんにアプローチしていくわけです。

池田

あー! なるほど! だから“転校生”なんですね!!
違うジャンルに持ち込んで勝負するのかあ。
「商品を変える」のと「お客さんを変える」のだとどっちがヒットの可能性が高いんですか?

黒川

どちらが、ということはない気がするなあ。
「こんなものが欲しかった!」と思ってもらえればどちらでもいいんじゃないかな。

池田

うう……また難しいことを言いはじめた……。
「こんなものが欲しかった!」っていうのがわかれば苦労しないという、民の声を代弁していいですか(笑)

黒川

あ、すみません……(笑)
これはあくまで僕のやり方なんですが、「みんながうすうす思っていること」をベースにしつつ、それに「ちょっと新鮮」を付け加えた企画をつくるようにしています。

池田

・・・・・・。

黒川

えーと、待ってね、ちゃんと説明します。
たとえば僕は、サンマーク出版にきて最初につくった本は、『親ゆびを刺激すると脳がたちまち若返りだす!』という本だったんです。
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池田

はい、13万部のベストセラーですよね。

黒川

あ、ありがとう(笑)
この本は、「みんながうすうすわかっていること+ちょっと新鮮」を実践した本なんです。
「認知症の予防や解消」がテーマの本で、親指を動かすことによって脳の血流が上がり、活性化するので、認知症が予防できるというようなことをいってます。
「指先を動かすことが脳の活性化につながる」っていうのが、読者が「うすうす知っていること」にあたるんです。
指を動かすとボケ予防になるって、なんとなく聞いたことあるでしょ?

池田

確かに。それは、なんとなく「常識」のように知っていますね。
ピアニストはボケないとか、折り紙をするといい、とか言いますもんね。

黒川

その「何となく言われている」のが大事だと思っているんです。
「指先を動かすことは脳にいいんですよ」って教えてあげたときに、「え、そうなの?」って言われるなら、それはまだ浸透してない。これだとまだ信頼性はないんです。
一方で、「ああ、そうよね」って言われるなら、浸透していること。これにはとっても信頼感があるんです。

池田

たしかに、さっきの指の話は「えっ、そうなの?」とは思わないですね。

黒川

うん、信頼性のある話だっていうことです。でも、だからといって「知っていること」にお金を払ってまで本を読もうとは思わないんです。
だから、ここが一番大事なところなんだけど、信頼感がある知識に、新鮮さをプラスするんです。
「指」でなく、「親指」にこだわったのはそのためです。
著者さんに取材をすると、「指先ぜんぶを動かさなくても、指のなかでもっとも運動力の高い親指を動かせば脳血流は上がる」と。それで、研究機関で実験をしたら間違いなかったんです。

だから、そこにフォーカスしていったの。

池田

そうなんですね! だから「親指」なんですか。

黒川

こうするとお客さんは、「指先を動かすのはいいと知っていたけど、なかでも親指が大事とは知らなかった」という反応をしてくれるんです。

池田

なるほど!「うすうすわかっていること+ちょっと新鮮」ですね。
読者がまったく知らないことを言うのが新しい企画というわけじゃない、ってことなんですね。
あ! ということは……!

黒川

ん?

池田

黒川さんが以前にヒットさせた『病気にならない! たまねぎ氷健康法』とかも同じ理屈ですか?
「たまねぎが健康にいいことはわかっているけど、氷っていうのが新しい」みたいな。

黒川

そうそう、その通りです。
ただ、「親ゆび」や「氷」が読者に受け入れてもらえるかどうかは、出すまでわからないですよ。
ここは毎回、期待と不安でいっぱいです。

池田

そうかあ、黒川さんはそこは計算ずくでやってるんだと思ってました。

黒川

とんでもない。それはやっぱりわからないですよ。
でも、確率を上げるために必死に考えてはいるんだけどね。

池田

「商品を変えるか、お客さんを変えるか」「うすうす知っていることに、新しさを加える」
な、な、なるほどすぎる……めちゃくちゃ勉強になります。
あのう、まだまだ「ハズさない」方法をお聞きしたいんですけど、もう1つ、きっと多くの編集者が悩んでいるであろうことを聞いてもいいですか?

黒川

はい、もちろん。

池田

それは、「自分がおもしろいと思うものをつくっていたら、売れるのか問題」なんです。

黒川

それな。切実な問題ですよね……。

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この記事を書いた人

池田るり子
編集者
栃木県出身。甘いもの大好き編集者。趣味は走ることと歌うこと。これからは、小説をたくさんつくりたいなと思っています。