【ヒットメーカーに会ってみた!】黒川精一さん第3回「自分がおもしろいと思っているものをつくると売れるのか問題」

Category: あう 0120ho_0152

連載「ヒットメーカーに会ってみた!」
記念すべき第1回目のゲストは、編集者の黒川精一さん。
2013年に『医者に殺されない47の心得』、2014年に『長生きしたけりゃふくらはぎをもみなさい』で2年連続のミリオンセラーを出され、2016年にも『どんなに体がかたい人でもベターッと開脚できるようになるすごい方法』がミリオンセラーとなっている、生きる伝説の編集者、黒川精一さんにお話を聞きに行きました。

——ここからは、制作秘話——
いちばんはじめに、このインタビューを申し込んだときにいただいたお返事は、「やるなら本気のものを。長時間、徹底的にやってほしい」というひと言でした。
ふだんはこういうインタビューはほとんど受けないという黒川さんの「決定版」のインタビューにするべく、ICレコーダーだけを握りしめて、単身、丸腰で乗り込みました。
数時間におよぶインタビューの結果、「これ、みんなに知らせずに、ひとりじめしたい……」と、本気で思うくらいの記事ができました!

黒川さんが公の場ではじめて明かす話がいっぱい。
すごすぎて、全8回のスペシャルインタビューです。どうぞごらんください。

第1回「一生懸命につくった本が売れない」 っていう事態を減らす方法を教えてください!
第2回「市場にない、売れる本」をつくるためにはどうすればいいか?
第3回「自分がおもしろいと思っているものをつくると売れるのか問題」
第4回「本づくりをはじめる前に、かならず満たしておくべきこと」
第5回「カバーをつくるときの、6つのチェックポイント」
第6回「原稿づくりの方法」って?
第7回「編集ができるようになるトレーニング」ってありますか?
第8回「本を売り伸ばすための、PR」について教えてください!

●第3回
「自分がおもしろいと思っているものをつくると売れるのか問題」

池田

「自分がおもしろいと思うものをつくっていたら、売れるか問題」っていうのが、ずっとあるんです。

黒川

うん、永遠のテーマですね。
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池田

「自分がおもしろいと思うものが、人にもおもしろいのか問題」と言いかえてもいいのかもしれないんですけど……

黒川

うん。本当にそれとの戦いだよねえ。

池田

この場を借りて悩み相談をさせてもらうと、私は今、自分がおもしろいと思うものをつくるほうが、
いいんじゃないかと思ってる時期なんです。
それはなぜかというと、自分ではない「誰か」をターゲットにしてつくるよりは、「自分」の悩みをつくったほうが、判断がぶれないからです。

黒川

うん、うん。
原稿づくりの時に思ってた「誰か」と、カバーづくりの時に思ってる「誰か」が少しずつ変わっちゃったりして、本のピントがずれてしまうことがあるよね。

池田

そうなんです……!
でも、「自分」と「世間」の思いがずれてしまうこともよくあるんです。
わたしはすごくおもしろいと思っていることが、全然受け入れてもらえなかったり。

黒川

わかります。とても悲しいことだよね。
「自分は作り手に向いてないんじゃないか」って肩を落とす最大の要因は、それだと思います。

池田

そうなんです。だから、その「チューニング法」のようなことをお聞きしたいんです。

黒川

ぼくは、本づくりで、「うれしい」っていうことを大事にしているんです。
どうなるとうれしいかな、ってことをいつも考えてる。
たとえば、「体がかたい人」にとってすごくうれしいことっていうのは、「開脚」ができるようになるか、「前屈」ができるか、多分、どっちかしかないんだと思うんです。

池田

それは、どうしてわかるんですか?
ご自分の体験からですか?

黒川

うん。ぼくは体がかたいから、やわらかい人を見て「いいなあ」と思ってた。
バレリーナとか、ベターッとやわらかい人みたいになりたい、ぼくにとっての「うれしい」はそういうことだから、そう思ってる人は結構いるんじゃないかなって、ずっと感じてました。

池田

つまり、自分の悩みにフォーカスするわけですね?

黒川

そう。人の悩みは、正しく理解できているかどうかわからないけれど、自分の悩みは、深掘りできるでしょ。
僕には「これまで何度も、ストレッチしようとして挫折してきた」っていう経験があるんです。
もちろん、股がいっぱい開けるようになりたいっていうのもあるけど、「開脚ができたら、俺は自分で決めたことが達成できた」っていう喜びを感じられるだろうな、って思うんです。その象徴が開脚なの。
……えっと、完全に笑ってるよね?
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池田

……笑ってないですよ。
股を開くことが、俺の人生の象徴だってことですね?(笑)

黒川

そう! きっと体のやわらかい人にはわからないだろうなあ。

池田

えーと……、
頭がはたらかなくなってきたせいだと思うので、ケーキを頼んでもいいですか?
(お店の人に)すみません、チョコレートケーキください。

お店の方

オレンジピールが入っているんですが、よろしいですか?

池田

あ、そうなんですか……。
じゃあ、やめます。ハイ、すみません。

黒川

あ、それだよ!!

池田

えっ?

黒川

あのね、今みたいなことを、見逃さないほうがいいと思うの!

池田

えっ、どういうことですか?

黒川

今、池田さんは、チョコレートケーキに「オレンジピール」が入っているから、頼まなかったわけでしょ。

池田

そ、そうです……甘いものを食べたいのに、中に酸味があると嫌だなと思って。

黒川

それ、ぼくもすごくよくわかります。
なにも入っていない純粋なチョコレートを食べたいときに、お酒とか、ベリーソースとかが入っていると、なんだかすごく「失敗した」っていう気持ちになる。
これって、もしかしたらみんなが、うすうす抱えてる問題なのかもしれないでしょ。

池田

あ……。
今、店員さんがわざわざ「オレンジピールが入っていますけど、いいですか」と聞いてくださったってことは、それを気にする人が一定数はいるってことですもんね。

黒川

そうそう。こんなふうに、自分の中でうすうす感じてたことが、「あっ、俺だけじゃないんだな、やっぱり」って確信に変わる瞬間があったら、それは企画になると思うんです。
そして今、その確信の瞬間がきたの。
「チョコレートにオレンジピールはいらない」って感じている人が、この世の中に何万人といるであろうことを、今、確信した。

池田

おお、反オレンジピール派が!! 
でも世の中には、ベリーやオレンジピールのはいったチョコレートケーキってほんとうにたくさんあるし、もちろん好きな人も多いと思うし、友だちがおいしく食べているのも見るので、自分が変なんだなと思って言い出せなかったというか……。

黒川

「あなたチョコレートケーキにオレンジピールが入ってることをどう思いますか?」なんて、ふだんは話題にのぼらないもんね。
好きな人のほうがだんぜん多くいるように見える。でも、自分はいつも避けてきた。
でも、もうひとり「それ、わかる!」って言う人が現れたら、そこにはなんらかのマーケットが存在するんじゃないかなあ。

池田

自分が、うすうす思っていたことに、あと1人同じことを思っている人がいたら企画になる……。
うわあ、これは「自分がおもしろいと思うものが、人にもおもしろいのか問題」の、解決の方程式ができそうですね!!

黒川

たとえばぼくは、「足首がかたいな」ってずっと思ってるのね。
足首がかたくてゴルフのスイングがうまくできないとか。
あと、しゃがむときに、足首がかたくて嫌だなと思ってる。
深い悩みかって言われると、まあそれほどではないんだけど、でも嫌だな、嫌だなってずっと思ってきたんです。
そしたら、この間、ある校閲の方がふと、「私、足首がかたいんですよね、だから腰痛もひどくて」って言ったの。
その瞬間にぼくは、「あっ、足首にはニーズある」って思ったんです。
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かたい足首……

池田

えー! そんな日常に企画が転がっているんですか!

黒川

だって、自分と、身近な人の中にもう一人いるんだから。
もちろん、それが100万人なのか、500万人なのかは、もうわかりようもない。
アンケートがとれるわけでもなく、大規模調査ができるわけでもないので。
だけど、身近な中に確実にそれをネックだと思ってる人がもう一人いれば、そこにはマーケットがあるっていうふうに判断します。
まあ、正確に言うと、「判断」というより「期待」なんだけど。

池田

なるほど……!
私、今までは「オレンジピールのケーキが多いから、オレンジピールケーキのレシピをつくるか」みたいに考えていました。
つまり、自分は全然対象読者じゃないけど、「どうやらそういう人がいるっぽいぞ」というような感じです。

黒川

すごくわかるなあ。でもね、それはとっても危険なことだと思います。
勝手にそういう事実をつくり上げていくっていうか、情報を想像で操作していっちゃう。
企画書をつくるときって、こういうことをやってしまいがちなの。
だから、池田さんの場合は、「チョコレートケーキにオレンジピールはいらない」っていうスタンスの本をつくるべきで、「みんな大好きオレンジピール♡」っていうスタンスの本はつくるべきではないんじゃないかな。
「大好き」の本は、オレンジピールが大好きな人がつくればいいの。

池田

あー、なるほど。
たしかに、私は、チョコレートをひと目見れば、これにオレンジピールが入っているかどうかを見きわめられますし、入っていそうなら絶対手をだしません。
企画としても手を出しちゃいけない、ってことですね。

黒川

ひと目見ればわかるんだ!(笑)
このあいだね、あるテレビ番組のディレクターに「番組の企画ってどうやって決めてるんですか?」って聞いたの。誰もが知ってる某局の看板番組です。
そしたら、「誰かが、いまこういうのが流行ってるからどうですか? って提案して、何人かが“たしかにそれよく見るよね”って賛同したらゴーになるケースが多いです」って言ってたんです。
つまり、“流行っている”ことに対して「実感があるかどうか」ってことなの。

池田

「実感」ですか。

黒川

そう、実感。
「統計によると20万人の人が関心をもっています」みたいにして、みんなを説得するんじゃなくて、「あー、それ、俺も電車の中で今朝みたよ」みたいな実感を共有できるかどうかで企画をゴーするかどうか決めると言ってたの。
僕はそれにすごく共感した。それで、その実感っていうことについて考えたんです。
大事なポイントがあるな、って思いました。

池田

え! なんですか?

黒川

僕らがつくってる実用書とかビジネス書って、「悩み」とそれを解決する「手段」で構成されてるでしょ。

池田

はい、読者の悩みや問題があって、それを解決する方法を著者が教える、っていうのが実用書ですよね。

黒川

そうそう、そのときにすごく大切だと感じているのは、「悩み」と「手段」の両方に対して“実感をともなった共感”をできるか、っていうことなんです。

池田

“実感をともなった共感”ってどういうことですか?

黒川

たとえば、「1対1で話すのは好きなんだけど、大勢の前でスピーチするのは苦手」っていう人がいるでしょ。

池田

あ、それ、わたしです。

黒川

っていうことはこの「悩み」には実感をともなった共感をするよね。それ、わかる! と。
じゃあ、それを解決するためには、「毎日腹筋運動をして体力をつければ、自分に自信が持てて人前でのスピーチも嫌じゃなくなる」って言われたら、どう思う?

池田

うーん、そんなんでスピーチが得意になるとは思えないかな……?

黒川

でしょ。つまり、「手段」に対しては共感できないってことです。

池田

あー、つまり、それだと本にしても広がっていかないんですか?

黒川

そうです。じつは多くの本がここでミスをおかしていると思うの。
「手段」に対して、共感を得られていないんです。
編集者って、著者が大切でしょ。たとえば、東大のえらい先生に「腹筋はスピーチに効くのだよ」って言われると、自分は共感してなかったとしても、「先生、それって、なんでですか?」とか聞きはじめちゃうんです。

池田

すごくわかります。
それでハーバードあたりの研究データとか出てきたりしようもんなら、「わー、やっぱり正しいんだ!」とか思っちゃうかも。

黒川

こうなると、そのデータをひっさげて、読者を説得しようとしはじめるんです。
「ハーバード大学のデータによると1日50回以上腹筋するとスピーチへの影響は……」みたいな。
でも、そもそも編集者自身がそこに実感をともなっていない。
それだと、読者もやる気になってくれないですよ。

池田

あー、耳がいたい……。
いま、頭の中に何冊かそういう本が浮かんできました……。

黒川

ぼくも、痛い経験が山ほどあります。
そういう失敗から学んだのは、実用書って、「知識を提供する」だけではなくて、「体験を提案する」ことが大切だっていうことなんです。
「手段」そのものが魅力的である必要がある。「それ、やってみたい!」と。

池田

そうかあ。ということは、「悩み」と「手段」の両方に共感がないとダメだということですね?

黒川

僕はそこにすごく気をつけてます。
そのどちらかをおざなりにしてしまってはダメです。
「それ、わかる!」っていう「悩み」に対して、「それ、やってみたい!」っていう「手段」を提供する。
これができれば、本って広まっていくはずなんです。

池田

今日のテーマは「自分がおもしろいと思っているものをつくると売れるのか問題」です。
1)自分の実感+もう1人同じ事を考えていたら、マーケットがある。
2)そのマーケットに対して、「やってみたい!」という解決策を見つける。
上の2つを満たせば、「自分がおもしろいと思っているもの」は売れる(多くの人に必要としてもらえる)。
うわあ……ずっとずっと悩んでたことに光が見えました……!(涙)
これは出版界のリーマン問題が解決されたような大発見なのではないでしょうか……
ありがとうございます!

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この記事を書いた人

池田るり子
編集者
栃木県出身。甘いもの大好き編集者。趣味は走ることと歌うこと。これからは、小説をたくさんつくりたいなと思っています。