【ヒットメーカーに会ってみた!】 柿内尚文さん 第4回 「出版業界が苦しんでいるのは、本の届け方である」

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手がけた書籍の部数が、1000万部超えの編集者がいるらしい。
この話を聞いたとき最初は、都市伝説かな? と思いました。
そんな人いるわけないじゃん。きっと、ずっと昔の編集者の話でしょ? とも思いました。

でも実在したのです。その名は柿内尚文(かきうち・たかふみ)さん。現在、株式会社アスコムの取締役編集局長をされています。
AIじゃなかったし、リアルタイムに存在する人間でした。そんな生きるカリスマとお話できるということで、当日私はオンラインの画面越しに緊張でガチガチだったんですが、柿内さんはわかりやすい言葉で丁寧にその場を解きほぐしてくださいました。

2020年6月には初著書となる『パン屋ではおにぎりを売れ 想像以上の答えが見つかる思考法』(かんき出版)を出版。
※2020年12月の時点で8刷、48,000部

今回は本が完成したあとの「届け方」についてのお話です!

第1回 「ベストセラー編集者が、著者になって初めてわかったこと」
第2回 「どうしたら売れる企画になりますか?」
第3回 「確実に読者がいる企画を作りたい!」

データにはデータを。情熱には情熱を

宮崎

あのう、いきなりなんですが、、、自分の感じる「面白い!」が企画として受け入れてもらえないときは、どうしたらいいですか?

柿内

自分の面白いが受け入れられないときですか。

宮崎

はい。というのも、『パン屋ではおにぎりを売れ』のP40「非論理的に考える」にこんな記述があります。

「エビデンスとしてデータが活用されますが、ここには大きな弊害がある。それはデータがないと決められなくなることです」

この部分、本当にそうだなあと感じたんです。
ただその一方で、企画会議ではデータを求められることが多いですよね? 類書の売れ行きなど、データを重視される場合はどうしたらいいと思いますか?

柿内

エビデンスやデータで説得されたいタイプの人は、やっぱり何かしらのエビデンスやデータが必要なんだと思います。

宮崎

そうですよね。

柿内

だから企画を考えるときに、「なぜその企画を、今出す必然性があるのか?」「どこにどんな読者がいるのか?」などをデータで示すのはどうでしょうか?

宮崎

データやエビデンスの出し方を少しずらしてみる感じですか?

柿内

そうですね。その考え方って、プロモーションするときも必要なんですね。メディアに売りこむとき「なんでこの本を、この著者を、今取り上げるのか?」という立て付けをしておかないと、なかなか取り上げてもらえない。

宮崎

たしかに。。。「なぜ今か?」と何度、PR部隊から聞かれたことか。

柿内

それと一緒で企画書にも、世の中にこの本を必要とする人がこんなに存在することを説明する必要がありますよね。それは、類書や実績のデータでは見えてこないかもしれませんが、何かしらのデータで説明できることなんじゃないかと思います。

宮崎

なるほど。

柿内

人の考え方を変えるのは、なかなか難しいと思うんです。その人の価値観やキャラクターだったりしますから。変えようとするのは、無謀な戦いになりがちなんです。
だから、相手の価値観の土俵の中で、説得できるものを提示しない限りは、やっぱりなかなか突破できないんじゃないかなあと思いますね。企画書に熱い思いを欲している人には、熱い思いをぶつけなきゃだめですし。

宮崎

あ〜、わかります!

柿内

売れてる本と似た本を出すっていうのは、今むしろ売れないですよっていうデータを出すのもいいですよね。売れないことすら、データ化して伝えていく感じです。
何事も数値化することは、無理ではない気がします。論理の組み立て方をどのデータを使って、どう見せていくかってことなのかなと思います。

池田

新人著者の企画が通らないって、全国の会議でのあるあるだと思うんですね。みんなが気づいていないおもしろい著者見つけた! っていうのが、編集の醍醐味みたいなところあるじゃないですか。

柿内

そうですね。いま出版業界が苦しんでいることは何かというと、先程も少し触れたとおり「届け方」のところだと思うんです。届け方がなかなか見つけられないというか、つくれないというか。
だからYouTubeの再生回数が何万回だとか、フォロワーが多いとかって話になるんですが、それって要は届け方の話だと思うんです。
だから届け方をその著者でどう作れるか? まで提案できるといいのかなと。

池田

届け方か〜。

柿内

新人著者かどうかって、結局企画の中身を判断してるわけではないですよね。単純にその届け方のところを見てるんだと思うんです。だから新人著者の場合は、どうやって届けるかまでプランして、伝えていけるといいのかなと。
10万部の実績がある著者だから次も10万部売れるなんて根拠は、最近のところまったくないわけです。もし企画の中身をそういう物差しで見てるとしたら、思考停止して昔の感覚でやってるってことかなあと。

池田

インフルエンサーなんかも同じですね。

柿内

はい。PVやフォロワーの数が多いというのは、「こういう届け方ができます」っていう材料の一部だと思うんです。
だからPV数やフォロワーの数を議論するのは、企画の価値、つまり企画の根っこの部分を議論してるわけではないと思います。企画の面白さとは違う土俵で議論してるんじゃないかと。

池田

違う土俵。

柿内

はい。
それに書店で火がつくこともあると思いますよ。ビジネス書なら、意識の高い人が書店さんに探しにくるケースは大いにある。そこからじわじわと広がることはありますよね。
でも僕らがやってる実用書は、書店で火がつくって難しいんです。だから最初から届け方もセットで考えないと、知ってもらえないし、認知してもらえない。企画の時点で届け方までをどうプランできるかが、ポイントだと考えています。

本の届け方って、どう考えたらいいですか?

宮崎

新人著者の企画で、届け方までプランして出された企画はありますか?

柿内

基本的にぼくは、新人かどうかって全然気にしないんです。でも新人っぽい人は多いのかもしれない。
だから、だれが著者になっても同じように、届け方までのプランを考えます。

池田

例えばどういうプランを立てるんでしょう?

柿内

本を届けるって、本とお客さんの出会いの場所をつくるってことですよね? 出会う場所って大体決まってると思っていて。
例えばざっくりですが、SNSなら、インスタがいいのか、Twitterがいいのか。
webなら、女性系webメディアがいいのか、ビジネスマン向けwebメディアがいいのか。
テレビなら、情報番組? 情報バラエティ番組?
ラジオなら、どの時間帯の、どんな番組?
イベントなら、リアルイベント? オンライン?
こんなふうに伝わる場所って限られているわけです。各場所で、何かできることはあるか? を考える。

池田

なるほど。

柿内

全部はできないかもしれないけど、決して難しいことではないと思うんです。それぞれの場所で伝え方をプランしていくって感じでしょうか。

池田

テレビ、ラジオ、雑誌、SNS、WEB記事、イベント・セミナー、この中で、できそうなことを考えていく感じですか?

柿内

そうですね。そこにもちろん書店も入るし、可能性があれば広告も入ると思います。

池田

思ったよりも突飛な策じゃないんですね!

柿内

そうですよ、全然突飛じゃないです。本当に普通です。
打つ手をできるだけ具体的にイメージしておくのが大事かもしれません。

宮崎

届け方を企画の段階で具体的にイメージできていると、本の作り方にもいい影響が出そうですね!

柿内

そうですね。そこは連動していきますからね。
例えばラジオに出したいって言っても、じゃあラジオのどの番組に、どんな紹介をされたいのか? そこに出すとどのくらいのレスポンスが見込めるのか? というのをある程度イメージできていると、アプローチの仕方がわかってきますよね。

『パン屋ではおにぎりを売れ』の届け方

今回の著書ではどんな届け方を考えたんですか?

柿内

この本に関して言うと、庄子さんに任せきりで申し訳ない気持ちがあります。
先程も話したとおり、著者になった瞬間になぜか同じことができなくなるという(笑)。だから庄子さんに聞いてもらったほうがいいかもしれません。

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問題:この本は東北、関東、関西、九州のうち、とくにどのエリアで実売が伸びたでしょうか?

庄子さん、いかがでしょう?

庄子

まずは「点」を打っていこうと思っています。ネットメディアには結構出させてもらいましたね。イベントも柿内さんに相談して、リアルとオンラインのどちらも積極的にやりました。広告も仕掛けていく予定です。

どこで動きが出ましたか? ネットですか?

庄子

この本は最初に書店で動きが出たんです。とくに関西の書店さんで調子がよくて。なので書店でちゃんと実売を出そうという戦略でした。ベタではあるんですが。

宮崎

最初に書店で動きが出るのは嬉しいですよね。

庄子

だからぼくもささやかながら書店営業をして、大きく展開してもらったりしてます。少しでも書店で伸ばしていこうと思って。編集者が営業に行くことってあまりないと思いますが、
「著者がどういう人なのか」「なぜこの本を出したのか」「どういう読者の反応があるのか」「どういう置き方をしてほしいのか」ということを直接伝えられますし、何より「この本を売りたいんです!」という熱意を届けられるので、すごく意義を感じましたね。

宮崎

編集者の鏡ですね!

庄子

あと、SNSに関してはできるだけ反応するようにしています。この本を話題にしてくれている人にTwitterで話しかけたり、リツートしたり。
一部ですがぼくが書いたnoteも少しは有効かなと思っていて、コメントしてくれた人には「読んでみてください!」と返事したりしています。あとあのnoteは、Amazonの商品紹介にこっそり入れてるんです。

宮崎

リンクを貼ったんですか?

庄子

Amazonにリンクは入れられないので、「これで検索してみてください」って入れてるんです。新聞やネット記事から、Amazonにはたくさんの人が見に来るじゃないですか。Amazonにいったときに、野菜の農家の人の思いみたいのがあったら、購買意欲が上がるのかなと思ったんです。なのであのnoteは二次利用、三次利用したいと考えています。

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実際のAmazonページより。庄子さんのnoteを読んだら、絶対にこの本を買いたくなるはず。

宮崎

なるほど〜!
ちなみに関西の書店で動きがあったそうですが、それななぜでしょうか?

庄子

ん〜。ノリがいいからでしょうか? 「パン屋でおにぎりを売る」っていう……。

宮崎

ああ! なるほど! って、私関西出身ではないので、なるほども何もないんですけど。
関西人の谷さんはどうですか?

えっ…? 関西人代表の扱いやめてください(笑)

池田

どう? タイトルを聞いて関西人の血は騒いだ?

血は騒いだね……ってこれ、なんか考察言う流れ?
えっと……関西の人は……逆説的なことが好きかもしれないですね……。

一同
あ〜〜〜〜。

あの……なんかそれっぽいこと……言えましたかね…?(笑)

宮崎

めっちゃ説得力ある!
ごめんなさい(笑)。無茶振りしました!

次回はいよいよ最終回!
長年、編集者を続けてきた柿内さんがぶつかった多くの壁、そしてその乗り越え方についてのお話です。
励まされること間違いなし!
(前回はこちら

この記事を書いた人

宮崎桃子
編集者
神奈川県出身。「読んだあとに、生きやすくなれる本作り」がモットー。女性実用書、語学書、資格書が多い。わかりやすくておもしろいモノ・ヒト・コトを日々探してます。がんばります。

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